体の一部に有毒物をもち、ほかの動物を殺傷したり、著しい生理障害をおこさせたりする魚類をいう。毒魚には、棘(とげ)に毒腺(どくせん)をもっていて、ほかの動物を刺すもの、体の一部に毒性があって、それを人が食べて中毒をおこすもの、体表から水中へ毒を分泌してほかの動物を麻痺(まひ)させるものなどがある。
[落合 明・尼岡邦夫]
ひれの棘などの周りにある毒腺から毒液を出して、ほかの動物に激痛を与えたり、死なせたりする魚類を刺毒魚とよぶ。毒腺は棘に接しているが、管でつながっていないし、体表にも開口していない。棘がほかの動物に刺さると毒腺の表皮が破れて流出した毒が傷口から流入するようになっている。棘に毒腺をもつことにより、捕食者からの防御効果を飛躍的に増大させることができる。棘は種類によっては鋸歯(きょし)状を呈し、傷口を広げて毒液を入れやすいようになっていたり、ほかの動物の体から抜けがたいようになっていたりする。毒物は不安定なタンパク質であり、痛みのほか、吐き気、下痢、呼吸困難、血圧低下をおこす。アカエイ、トビエイ、ツバクロエイなどの尾部背中線上にある長く鋭い尾棘(びきょく)、アカザ、ゴンズイなどナマズ類の背びれと胸びれの棘には刺毒がある。カサゴ類には背びれや臀(しり)びれ、腹びれの棘に毒腺がある。とくにダルマオコゼ、オニオコゼ、ヒメオコゼ、ミノカサゴでは猛毒で人を死亡させることがある。
北大西洋西岸や地中海沿岸の浅所にいるミシマオコゼに似たウィーバーフィッシュTrachinus viperaは有名な刺毒魚で、地元のエビ網漁の漁師に恐れられている。この魚は、背びれの数本の棘と鰓蓋(さいがい)の2本の棘に毒腺がある。アイゴ類も背びれと臀びれをあわせて20本前後、腹びれに4本の棘があり、いずれも毒腺がある。
[落合 明・尼岡邦夫]
(1)フグ毒 魚毒のなかではもっとも毒性が強く、これの食中毒による死亡者は多い。フグ毒の構造式はC11H17N3O8で、炭素環が一つしかなく、グアニジン基と6個のヒドロキシ基、ヘミラクタール基をもつのが特徴で、テトロドトキシンと命名されている。1972年(昭和47)に名古屋大学の後藤俊夫(1929―1990)・岸義人(よしと)(1937―2023)らによって天然と同じものが合成された。この結晶は水や有機溶媒に溶けないが、酸性の水に溶け、熱に対して安定していて300℃でも分解しない。中毒症は食後20分から3時間で現れ、知覚麻痺、言語障害、頭痛、腹痛、吐き気、血圧低下、呼吸困難、意識消失ののち数時間で死ぬことがある。
この毒はフグ類だけでなく、ツムギハゼや両生類のカリフォルニアイモリなどにもある。フグ類ではフグ科Tetraodontidaeのサバフグを除くすべての種類にあって、ハコフグ科やウチワフグ科にはない。日本のものでは、トラフグ、カラス、マフグ、ショウサイフグ、ナシフグなどよく食用にするもののほか、ヒガンフグ、コモンフグ、クサフグ、シマフグなども有毒である。とくに卵巣と肝臓に毒が多く、ついで皮と腸にあるが、血液や筋肉には量的に少なく問題にならない。フグ毒は季節により毒性が変わり、冬から春にわたる産卵期にもっとも強い。また、同種でも個体差が大きいうえ、奄美(あまみ)諸島以南にいるものは毒性が強い。無毒のシロサバフグによく似ているドクサバフグには筋肉にも猛毒があり、クロサバフグには卵巣と肝臓に猛毒があるので、誤って食べるときわめて危険である。
(2)シガテラ毒 シガテラとよばれる毒をもった魚類を食べることによって、下痢、吐き気、温度の異常感覚、関節痛、頭痛を催し、最後に昏睡(こんすい)して死ぬことがある。シガテラという語は、カリブ海に産する巻き貝の1種シガciguaが、神経や消化系に中毒症状をおこすことに由来している。おもに熱帯、亜熱帯のサンゴ礁や岩場にいるフエダイ類、ウツボ類、カマス類、ハタ類、アジ類、ニザダイ類、ブダイ類などがシガテラ毒をもつ可能性がある。筋肉より内臓で毒性が高い。シガテラ毒性は同種でも地域により、また年によって異なるほか、個体差や部位差が著しいのが特徴である。このため予防対策が非常に困難である。その理由の一つとして、食物連鎖を通じての毒物の蓄積が考えられる。つまり、有毒な藻類を食べたサザナミハギなどの草食魚に毒物が移り、ついでこれを食べた肉食魚に移行すると考えられている。
シガテラとは異なった幻覚をおこす食中毒が、熱帯のボラやヒメジ類など数種で知られている。また、サメ類、イシナギ、マグロ類など大形魚の肝臓にはビタミンAが多く蓄積されるので、これによって頭痛、皮膚の剥(は)がれ、発疹(ほっしん)などがおこることがある。
[落合 明・尼岡邦夫]
ハコフグ、ウミスズメ、ヨコシマフグ、ヌノサラシ、アゴハタ、ハシナガウバウオ、ミナミウシノシタ、コバンハゼなどは、皮膚の粘液細胞の分泌腺から毒を放出し、同居する魚を短時間で殺してしまう。皮膚毒はグラミスチン、グラミスチン類似性毒で、ハコフグやウミスズメのものはパフトキシンpahutoxinとよばれている。毒には苦味があり、毒性と溶血性とがある。
[落合 明・尼岡邦夫]
『橋本芳郎著『魚貝類の毒』(1977・東京大学出版会)』
人間に対して有毒な障害を起こさせる魚類の総称。これらは次の3種に大別できる。(1)人が食べて中毒するもの,(2)魚が刺して害を与えるもの,(3)かんで害を与えるもの。(1)については〈魚貝毒〉の項を参照。ここでは刺毒と咬毒をもつもので魚類以外の水産動物も含めて述べる。
毒液を出す刺棘(しきよく)をもつ魚は世界中で200種ほどいるが,日本近海産のものではアイゴ,オニオコゼ,ダルマオコゼ,ハオコゼ,ヒメオコゼ,ハチ,ミノカサゴ,ゴンズイ,アカエイ,ヒラタエイ,トビエイなどが知られている。これらは一般に動きの鈍い底生魚が多く,ひれ部や尾部に防御器官と考えられる毒とげをもつ。刺されると激しい痛みを感じ,場合によっては致命的なこともある。症状はふつう局部的だが,ときに吐気,下痢,痙攣(けいれん),呼吸困難など全身症状が見られることがある。毒の本体はすべてタンパク性の毒素と考えられているが,精製されて化学的・薬理学的特性が明らかにされたものはまだほとんどない。
魚以外ではイモガイ,ウニ,イソギンチャク,クラゲなどに刺毒をもつものがある。イモガイ類では熱帯・亜熱帯海産の肉食性の巻貝のアンボイナガイ,シロアンボイナガイがとくに危険とされる。刺されると激しい痛み,しびれ,嘔吐,めまいなどが起こり,ひどい場合には死亡することがある。タンパク毒とされるが化学的性質はまだ明らかでない。ガンガゼ,オニヒトデなどの棘皮動物も毒とげをもち,あやまって刺されると鋭い痛みとはれが起こる。毒の本体はタンパク様物質と推定されている。イソギンチャクやクラゲには刺胞という特殊な毒器官をもつ種類がある。日本近海でも見られるものに暖海性クラゲのカツオノエボシがある。刺されると激痛とともに局部が赤くはれあがり,ひどいときにはひきつけなどを起こして死亡することがある。この毒もタンパク質であることが明らかにされている。
かんで人に危害を与える魚には歯の鋭いサメ類やウツボ類があるが,毒液を分泌するわけではないので毒魚の範疇(はんちゆう)には入らない。咬毒をもつ海産動物としてはウミヘビ類とタコ類が知られている。亜熱帯海産のエラブウミヘビの毒液からは3種類の神経毒が得られている。これらは60~62個のアミノ酸よりなるタンパク質で,エラブトキシンa,b,cと呼ばれている。また,日本近海でもときに見られるという小型のヒョウモンダコは後部唾液腺に毒をもち,かまれると死ぬ恐れもある。この毒はタンパク毒ではなく,フグ毒テトロドトキシンと同一物質であることが最近明らかにされた。
執筆者:山口 勝巳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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