六訂版 家庭医学大全科 「フグ中毒」の解説
フグ中毒
フグちゅうどく
Puffer fish poisoning
(食中毒)
中毒の発生状況
日本の動物性自然毒による食中毒の大部分はフグ中毒です。全食中毒のなかでフグ中毒は発生件数の約1%、患者数の約0.1%を占めるにすぎませんが、フグ中毒による死者は全食中毒死者の半数にも達しています。
1983年に厚生省(現厚生労働省)からフグ食用のガイドラインが出され、フグ中毒は確実に減少しましたが、それでも最近10年間は毎年25件前後発生し、患者数は40人前後、死者数は数人程度と横ばい状態です。
症状の現れ方
フグ中毒の症状は通常は食後20分~3時間で現れます。唇、舌先のしびれから始まり、指先のしびれが続きます。頭痛、腹痛、腕痛を伴うこともあります。次いで歩行困難、嘔吐、言語障害、呼吸困難、血圧低下が起こり、最後に呼吸麻痺により死亡します。致死時間は4~6時間が最も多く、長くても8時間程度です。
現在のところ、食べた物を吐き出させるといった程度の応急処置しかありません。
有毒フグと有毒組織
フグ目の魚類にはフグ科のほかにウチワフグ科、ハリセンボン科、ハコフグ科などがありますが、フグ毒をもつものはフグ科に限られています。
フグの毒性は種類や組織によって大きく異なっています。卵巣と肝臓の毒性が高く、筋肉は無毒の種類が多いのですが、ドクサバフグのように筋肉の毒性も高いものや、逆にサバフグやカワフグのようにすべての組織が無毒のものもいます。さらに有毒フグでも、その毒性には著しい個体差、季節差、地域差がみられます。
毒成分の本体
フグ毒の本体はテトロドトキシン(TTX)で、強力な神経毒です。神経や骨格筋の細胞膜には興奮の伝達に関与しているナトリウムチャンネル(ナトリウムイオンのみを通過させるチャンネルで、蛋白質でできている)がありますが、TTXはナトリウムチャンネルに特異的に結合して細胞外から細胞内へのナトリウムイオンの流入を阻止し、結果として興奮伝達を停止させます。
TTXは自然界に広く分布し、フグのほかにもこれまでに両生類のカリフォルニアイモリ、アテロパス属のカエル、魚類のツムギハゼ、節足動物のオウギガニ類、軟体動物のヒョウモンダコ、ボウシュウボラ、バイなど多様な生物に存在していることが確認されています。このうち、ボウシュウボラとバイではTTX中毒が起きた例もあります。
塩見 一雄
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報