日本大百科全書(ニッポニカ) 「フグ中毒」の意味・わかりやすい解説
フグ中毒
ふぐちゅうどく
有毒フグの内臓や組織内(とくに卵巣や肝臓)に含まれるテトロドトキシンとよばれる神経毒を摂取することによりおこる食中毒の一種。中毒の強弱はフグ臓器の摂取量によるものではなく、それに含まれるテトロドトキシンの含有量に左右され、フグの卵巣および肝臓の含有量は秋から冬にかけて多くなるが、これはフグ中毒の季節的な発生状況に一致している。
症状は中毒の軽重によって四段階に分けられる。〔1〕口唇、舌端、指頭のしびれ感があり、しばしば嘔吐(おうと)がみられる。〔2〕皮膚感覚や重さの感覚が失われ、味覚も鈍麻し、手足の運動失調がみられる。〔3〕筋や声帯の麻痺(まひ)によって運動や発語が不能となり、嚥下(えんげ)困難、チアノーゼ、呼吸障害、血圧下降がみられる。〔4〕意識が混濁し、血圧が著しく低下し、呼吸麻痺によって死亡する。
中毒は摂取後30分から1時間で悪心や嘔吐の症状で始まる。普通、摂取後1~4時間で死亡する場合が多く、経過の速いものでは嘔吐もみられないうちに死亡する。死亡率は30~70%と高く、原因の大半は素人(しろうと)料理によるものである。
治療としては呼吸抑制と血圧下降に対処することが先決で、速やかに近代設備の整った病院に搬送し、呼吸不全の兆候があれば機械的人工呼吸を行う。中毒初期の嘔吐は毒の排除にも役だつ。テトロドトキシンに有効な解毒剤はなく、胃洗浄が行われる。
[柳下徳雄]