百科事典マイペディア 「民族スポーツ」の意味・わかりやすい解説 民族スポーツ【みんぞくスポーツ】 ある特定の民族の間に,あるいはある特定の地域に古くから伝承されているスポーツのこと。しかも,それぞれの民族や地域に固有の,土着(バナキュラーvernacular)の文化やコスモロジーと深く結びついているスポーツを意味する。民族衣装,民族舞踊,民族音楽,民族料理などと同じ語法。とりわけ,民族スポーツは土着の宗教(信仰)や生業形態(気候・風土),および戦闘形態を色濃く反映しているように思われる。したがって,運動形態としてはよく似ているものもあるが,その精神性,あるいは文化性という点では,個々の民族スポーツごとに異なっており,特異性・独自性を持っている。 たとえば,綱引きを民族スポーツとして行っている民族はかなりの分布を示しており,多くの点で共通する要素をもっているが,厳密にいえば,一つひとつ異なるものである。イヌイット(エスキモー)では天候占いのために,アイヌは熊祭の一環として,カムチャツカ半島のイテリメン族は季節の変化を確認するために,東南アジアの穀物栽培民の間では豊穣儀礼として,北アフリカのベルベル族では降雨祈願のために,あるいは,日本では竜や蛇を意識した水神儀礼として行われたり,まことにバラエティに富んでいる。 相撲・レスリング系の格闘技も民族スポーツとして広い分布を示すが,これらもまた綱引き同様,各地域や民族によって微妙にその性格を異にする。民族スポーツは,その一部が近代化をはたして国際化し,それらが近代スポーツとなって,近代オリンピック競技大会やサッカー・ワールドカップのように,今日のスポーツ文化の中心を形成していると同時に,いまだ土着性(バナキュラー性)のなかに閉じこもって,民族固有のエスニシティethnicityを形成する文化装置としての機能を固持しており,いわば,今日のスポーツ文化の周縁を形成しているのである。 最近になって,民族スポーツの存在そのものに高い関心が寄せられるようになってきたが,それらの調査・研究という点ではまだ始まったばかりである。それらの成果によると,近年では,民族固有のエスニシティの確認を意識した民族スポーツ大会が開かれるようになってきているという。たとえば,スペイン・バスク地方のバスク民族スポーツ大会,アラスカのワールド・エスキモー・インディアン・オリンピック,スコットランドのハイランド・ゲームなどがある。これらの小規模の民族スポーツ大会は無数にあるといってよい。日本でも,〈馬の日〉(9月23日)には東京・世田谷の馬事公苑で,毎年,全国各地に伝承されている馬の民俗スポーツが披露されている。 出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報