気象の変化や一定の気象条件下で症状が悪化したり、発作が誘発されたりする一連の病気をいう。まずあげられるのは関節リウマチと神経痛である。これらの病気の痛みの出現や悪化が、ある気象条件下でおこりやすいことは経験的によく知られており、しばしばそれを天気痛とよぶことからも、この間の事情をよく物語っている。そのほか、気管支喘息(ぜんそく)、心筋梗塞(こうそく)、脳出血、胆石症、ベーチェット病などが気象の影響を受ける。ことに気象条件に急激な変化をおこしやすい前線(性質の違う気団の接触によって生ずる不連続な境界)の通過という条件が大きな影響を及ぼすようであり、これらの病気の発作は、いずれも前線通過の前後に比べて通過時におこりやすいことが証明されている。
気象と病気の関係を明らかにするには、一定の地域において、対象とする病気の発生状況や経過をある期間にわたって詳細に観察し、それと並行して観測した気象条件の変動との間に関連性があるか否かを検討する。
気象病のメカニズムに関連して、気象変化が生体にどのような影響を与えるかという問題に対して次のような説がある。(1)前線の接近(低気圧の接近)による減圧では、体内にヒスタミンまたはヒスタミン様物質が動員され、体内の水分が貯留し、平滑筋の収縮、血管の透過性、炎症反応が増強するため、気象病が誘発されるとする説、(2)気象変化が自律神経に影響を与えるため、最初は副交感神経の感受性が亢進(こうしん)、ついで交感神経の感受性が亢進するとする説、(3)気象の変化をストレスとして考え、下垂体前葉、副腎(ふくじん)皮質系が作動するためとの説がある。このような気象病のメカニズムについては今後の研究にまつところが大きい。
一方、一定の気象条件と病気との関係が明らかな場合には、人工気象室によって逆に病気の経過に有利な気象条件(温度、湿度、気圧など)を人工的につくりだして病気の治療に応用しようという試みが、すでに関節リウマチや気管支喘息などで行われている。
[加地正郎]
『加地正郎編『人間・気象・病気』(NHKブックス)』▽『笠井和編『小児科MOOK14 気象医学』(1980・金原出版)』
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(2018-3-20)
…中国最古の医典の一つ《黄帝内経》や,ギリシアのヒッポクラテスの著書といわれるものの中に生気象学的な記載が多くみられる。 地球上のいろいろな場所,さまざまな高さにおける肉体的・精神的な状態の変化,身体諸機能の季節変動,日変化あるいは風土順化のほかに,気温,湿度,気流,気圧,放射線,イオン,大気中の各種エーロゾル物質などの気象要素と生体との関連,また,気象要素個々の影響ばかりでなく,それらの総観的な変動に伴う生体への影響,たとえば,気象の急速な変化によって引き起こされる気象病,季節に伴う疾病状況の変動を示す季節病などは,生気象学の主要な研究対象である。また人間の健康を維持・発展させる立場から,療養地,保養地における風景,植生,地誌的な諸要素の生体に与える好影響の研究も,重要な分野である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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