山地に水を蓄え,河川の流量を調節して渇水しないようにする目的で設けられた森林。古くから水田耕作を主とする日本では,農業用水の確保のため,いたるところで水源涵養林がみられた。その名称も多く,田山(たやま),水林(みずばやし),水の根林(ねばやし)などが代表例である。一般に林政に意を用いた藩では,水源林の管理は厳しく,〈水の目御山の儀は御用材たりとも一切きり出し申さず堅く御差しとめ成り置き候 御山法の事〉(弘前藩)として禁伐している。旧藩の水源林で現存している代表的なものに,熊本藩,白河藩のものがある。このような老齢のりっぱな森林では,土壌中に腐植が深く浸透して空隙(くうげき)が多く,また落葉層がこれを保護しているので,雨水はよく土壌中に浸透し,水をよく温存し水の涵養力が大きい。
森林法では水源涵養保安林を必要な山林に指定して,この目的達成に努力している。戦後,水源涵養保安林は急激に拡大充実され,全保安林面積中約70%は水源涵養林で占める。現在,利水のために多くのダム建設が行われているが,その上流域に水源涵養林の整備をあわせて実行することは有意義である。水源林の造成,整備の実行機関として,森林開発公団(2003年より緑資源機構)や各府県の林業公社がある。これらの水源地帯は奥地の過疎地帯であるため,森林整備には多額の経費を要する。このため,水を消費する県や市,町が上流域の森林整備の経費を負担する基金制度が進みつつある。福岡県,広島県,滋賀県,愛知県,岐阜県などでこれによる森林造成が行われている。理想としては,高蓄積の高齢林,かつ複層林化を図ることが望まれる。
執筆者:筒井 迪夫+橋本 与良
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…具体的には主産物の乱伐,過伐,副産物の乱収,暴採により,地力が破壊,減退,消耗することのない技術のことで,それが(1)の内容である。(2)の森林保全とは,国土の荒廃を防止し,環境を保全する目的の森林を保持することで,水源地帯の森林を適正に管理して水の貯留に役だて(〈水源涵養林〉の項目を参照),土砂が流出,崩壊しやすい場所では森林を育ててそれを防ぎ,風が強く,飛砂の災害の多い場所では森林によってそれを防ぐ(〈防風林〉の項目を参照)。このような目的で森林を取り扱う営為が(2)の内容である。…
※「水源涵養林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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