人の手が入らずに自然更新で成林した森林の総称。天然林は、木材生産の観点から設けられた林業統計用語であり、木材生産の対象とならない竹林、無立木地(伐採跡地、草生地)は天然林に含まれない。自然保護や環境保全の観点からは、天然林は二次林(伐採跡地の自然更新林)と原生林に区分される。2007年(平成19)時点の日本の天然林面積は1338万ヘクタール、全森林面積の53%を占める。竹林、無立木地は137万ヘクタール、5%となっている(『森林・林業白書』2012年版)。天然林の大半は広葉樹林からなるが、スギ、ヒノキの銘木を生み出す天然の針葉樹林も存在する。秋田県の北部地域に分布する天然秋田スギ林、長野県の木曽谷に分布する天然木曽ヒノキ林、九州の屋久スギ林などは、日本を代表する天然針葉樹林である。天然針葉樹林は「高度経済成長」の過程で大規模伐採が繰り返され、種としての生態系の存続が危ぶまれる事態になっている。また、広葉樹天然林は、1950年代までは木炭、薪(まき)などの家庭用燃料として利用され、1960年代からは紙・パルプ・チップ原料として多く利用されてきたが、1970年代からチップ輸入が急増し、広葉樹天然林のチップ利用が大きく後退している。この他、広葉樹天然林は、家具材としても多く使用されてきたが、その家具用利用も外材製品によって置き換わられている。天然のアカマツ林やクロマツ林も各地に分布していたが、1970年代ごろから松くい虫の被害が全国的に広がり、天然マツ林の多くが失われている。2011年3月11日の東日本大震災でも、沿岸部の天然マツ林が広範に失われた。天然林は、人手がほとんど加わっていない森林であり、日本古来の森林植生の生態学的な解明や、森林のもつ国土保全機能や水源涵養(かんよう)機能などの公益的機能のメカニズムの解明、さらには薬用品開発などを行ううえで、欠くことのできない貴重な資源でもある。
[山岸清隆]
自然の状態のままで,人手の加えられていない森林。原生林も天然林であるが,風や火災,あるいは伐採などで破壊されたあとに自然に放置しておいて再生した若い森林もまた天然林である。後者は天然生林または二次林ともよばれる。日本の天然林は亜高山や北海道の一部を除いて,人為的な伐採が行われながら天然に更新したものが多い。屋久島のスギ原生林といわれるものも200~300年前に強度に伐採された跡に成立したものが主体となっている。
このような森林の種組成はその場の環境に適したものからなるが,環境条件,森林の破壊の程度・頻度,遷移の進行の度合によって違う。十分な時間がたつとそれぞれの条件の下で極相に達する。熱帯や暖帯の天然林は常緑広葉樹が多く,多くの種が混交しており,バイオマスが大きいわりには利用可能な幹材積は多くない。一方,北アメリカの太平洋岸に発達する温帯多雨林やカナダ,ロシア,北ヨーロッパの温帯北部から亜寒帯,亜高山の天然林はおもに針葉樹からなり,利用可能な幹材積の割合は大きい。今日日本で使う木材の約70%は輸入材(外材)であるが,その大部分が南洋材,ロシア材(北洋材),米材で,天然林の伐採によっている。また国内での広葉樹材の生産は,その大部分が天然林の伐採によっている。条件がよければ伐採後放置しておいても再び天然林が成立しうるが,再び伐採,利用できるまでには長い年月がかかる。天然林の伐採跡は農地や人工林などにかえられることがあって,天然林はしだいに減少する傾向にある。熱帯では年々2000万haもの森林が減少しているという。日本では国内での用材生産を増大させる目的で,天然林や薪炭林を針葉樹の人工林にかえるいわゆる拡大造林が全国的に推進されてきた。このような拡大造林は昭和40年代にピークに達し,毎年約30万ha程度の人工林化が行われた。その結果,日本では広葉樹天然林は著しく減少してきている。天然林は木材生産という点で人工林に劣るが,それぞれの環境に適した樹種よりなっていて生物的に安定しており,生物相も豊富である。
→森林
執筆者:堤 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…草本階,コケ階を林床forest floorという。環境条件に恵まれた広葉樹天然林では各階層が発達するが,シラベなどの亜高山針葉樹天然林では,高木階とコケ階のみの単純な構成となる。針葉樹人工林も同様に階層は単純である。…
※「天然林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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