人間がなんらかの手を加えてつくった森林のことで,まったく自然に放置されて成立した天然林と区別される。人工林造成の目的は用材,薪炭材などの木材生産であるが,荒廃地,崩壊地の復旧,侵食防止のための砂防林,防風のための防風林,海岸の保全,防潮のための海岸林など特別の目的をもつものも含まれる。
森林をつくる方法は大別して人工造林(造林)と天然更新にわけられる。人工造林は人が種子,苗,挿穂などの造林材料を林地に定着させて次代の森林をつくる方法であり,天然更新は天然にそこにある母樹の種子や切株からの萌芽などを利用育成して次代の森林をつくる方法をいう。天然更新法は中・北部ヨーロッパで発達した方法であるが,日本はヨーロッパに比べ樹木の種数が多く,目的とする樹種以外の種との競争の制御が困難で,この方法は広くは用いられていない。日本のおもな造林樹種はスギ,ヒノキ,アカマツ,クロマツ,カラマツ,トドマツ,エゾマツ,アカエゾマツである。欧米諸国でも人工林はモミ属,トウヒ属,カラマツなどの針葉樹が多い。針葉樹は広葉樹に比べ幹が通直で枝が少なく,幹材積の林分あたりの収量が多いからである。ヨーロッパではブナ,日本ではケヤキ,クスノキなどの人工林があるが,日本での広葉樹人工林はきわめて少ない。熱帯でも人工林の造成が進められているが,東南アジアではマツ類のほか,チーク,マホガニーなどの有用広葉樹の造林,おもにパルプ用材を目的とした生長の速いユーカリ類などの造林が行われている。
人工造林は林地に種子をまく方法や挿穂を直接さしつける方法があるが,きわめて限られていて,苗を育てて林地に植えつける植樹造林(植えつけ造林ともいう)が主流である。したがって,人工林といえば植樹造林をさすものとみる傾向がある。植樹造林による人工林は一斉同齢の純林となり,収穫は一時に全部を伐採する皆伐作業によって行われる。植えつけから収穫までの間,寒さ,日照り,風などの気象害,火災,病虫害などをうけるからつねに保護,管理が必要である。日本の暖温帯ではおもにスギ,ヒノキが植えられ,マツ類は土壌条件のよくない場所に成立する。ヒノキは多雪地で被害が大きい。温帯北部から亜寒帯南部にかけて,生長の速いカラマツ造林が急速に増加した。北海道ではカラマツのほかトドマツ,アカエゾマツなどが植えられる。奈良県吉野郡は400年をこえるスギ,ヒノキ人工林の古い歴史を有し,密植と間伐の繰返しによって優れた材を生産する。三重県の尾鷲地方も吉野につぐ古い人工林の歴史をもち,京都の北山では品種の選抜とていねいな枝打ちによってみごとな磨丸太,垂木の生産地として有名である。これらの地域の育林技術はその集約度において,世界的にきわめて優れたものといってよい。また,これらの林業地を含め広い地域にわたってさまざまの林齢の林分がいり混じる人工林地帯は人工林特有の美しい景観をつくっている。
第2次大戦中から戦後にかけて森林の伐採が強く行われ,その回復と木材需要の増大に対応するため人工造林が急速に進行し,人工林の面積は増加した。植樹造林での有用材の生産力は高いが,手入れを怠ると失敗し諸害をうけやすく,皆伐,裸地化による侵食の増加,地力低下をおこしやすい欠点があるので,近年は非皆伐による人工林育成の方式が考えられている。
→森林
執筆者:堤 利夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
産業用の木材生産を目的に樹木植栽で造成された森林。2007年(平成19)時点の日本の人工林面積は1035万ヘクタールで、全森林面積の41%に及ぶ(『森林・林業白書』2012年版)。日本には、スギ、ヒノキなどの木造建築用の有用樹種が存在していたこともあって、城下町の形成の行われる封建時代から人工林が造成されてきた。「吉野林業」で有名な奈良県吉野地方は室町時代から、「スギ林業」の産地として有名な静岡県天竜地方や大分県日田(ひた)地方などは江戸時代から人工林の造成が行われてきた。局地的に行われてきた人工林の造成が全国規模で行われるのは1950年代以降である。2007年時点の人工林1035万ヘクタールの9割以上が1950年代以降の造林地からなっている。戦後の人工林の造成は、植栽地の樹木間の密閉を早め造林費の軽減を図ることを目的に、伐採時の立木本数の3倍から4倍にも及ぶ密植方式の植栽を行った。密植された造林地は、樹木の種内競合を避けるために間伐などによる適正な本数管理を必要とするが、1970年代以降は外材輸入の影響を受けて間伐の実施が困難な状況になっている。そのため、人工林の多くは、間伐の手遅れで成長不全で過密化し、気象災害に脆弱(ぜいじゃく)な森林となっている。
国連食糧農業機関(FAO)の『世界森林資源評価』(2010)によると、世界の人工林は、熱帯林再生への国際的な取組みや中国などの新規植林によって2005年から2010年にかけて年平均500万ヘクタール単位で増加したとされる。1990年代は熱帯林を中心に毎年1600万ヘクタールの森林の減少が続いたが、2005年以降は森林の減少も収まり、森林の造成時代に転化した状況になっている。他方、ヨーロッパ諸国のなかには、森林の人工林化が極度に展開した国もみられる。上記のFAO資料によると、チェコでは森林に占める人工林の比率が99%、アイルランドでは89%、イギリスでは77%にも及んでいる。人工林は、森林の樹種構成を単純化し、森林の生態系の多様化を失わせる恐れをもっている。それだけに、過度の人工林化は、気象災害などに対する森林の耐性を脆弱化させるものでもある。
[山岸清隆]
『全国林業改良普及協会編・刊『私たちの人工林』(2000)』▽『恩田裕一編『人工林荒廃と水・土砂流出の実態』(2008・岩波書店)』
… 自然状態で安定な植物群落を極相という。湿潤な日本の極相は森林であり,昔から手つかずで残されてきた極相の森林を原生林(原始林),雑木林のように人手が加わってできた森林を二次林,造林された林を人工林という。森林の国日本において原生林に近い天然林は少なくなり,とくに照葉樹林は社寺林程度しか残されていない。…
…環境条件に恵まれた広葉樹天然林では各階層が発達するが,シラベなどの亜高山針葉樹天然林では,高木階とコケ階のみの単純な構成となる。針葉樹人工林も同様に階層は単純である。また葉における光合成と植物体の呼吸による消費の差を純生産量といい,それから枯死量と被食量を除いた分が集積したものを植物群落の現存量という。…
※「人工林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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