日本大百科全書(ニッポニカ) 「沖縄料理」の意味・わかりやすい解説
沖縄料理
おきなわりょうり
南西諸島一帯でつくられる料理。琉球(りゅうきゅう)料理ともいう。日本本土や中国料理の影響を受け、亜熱帯沖縄の風土にあった独特の料理となった。豚肉を多く用いる。中国と永年にわたって朝貢貿易を続けてきた沖縄の歴史的背景が、その料理の成立にも重要な役割を果たし、特色を与えている。すなわち、14世紀以降琉球から中国へ赴いた進貢船(ちんくんしん)や、17世紀以降大和(やまと)(薩摩(さつま))へ向かった楷船(けーしん)という貿易船に、包丁人(ほうちょうにん)(料理長)を乗り込ませて中国料理と日本料理を習得させ、それを基本に、おもに沖縄にある材料を使い、沖縄の気候や風土にあった料理を創作した。亜熱帯という沖縄の特殊な風土では、中国料理も日本料理もそのままではなじまなかったので、包丁人たちが知恵を絞って生まれたのが沖縄料理である。
[嘉手川重喜]
沿革
近代以前の沖縄料理は、宮廷料理と庶民料理に分けられていた。宮廷料理は首里王朝の宮廷で、おもに王侯貴族や外国の賓客の接待用に、貴族の夫人たちや包丁人がつくった。
首里王朝では、外交貿易使節の派遣、接受が重要な行事であった。中国との間には、進貢船、琉球王即位の際来琉する冊封使(さくほうし)(乗船を御冠船(おかんせん)という)、その返礼としての謝恩使などの往来があり、幕府に対しては、将軍就任の慶賀使および琉球王即位の謝恩使(江戸上(のぼ)り)、また薩摩へは年頭使および吉凶事の特使(大和上り)派遣があり、その送迎の宴にあたっては、包丁人が料理の腕を振るった。中国の冊封使には中国料理を、薩摩藩の在番奉行(ぶぎょう)や大和役人には日本風の料理をつくってもてなした。
沖縄料理は、南海の一小国のものとは思えないほどの美味として外国人に評価された。1527年(大永7)に尚清王(しょうせいおう)の即位の際、冊封副使として来琉した中国の陳侃(ちんかん)は、『使琉球録』(1534年選集)のなかで、「首里王城での正餐(せいさん)は冊封船の料理長がつくり、王子、親方(うぇーかた)の家に招かれたときの料理はその夫人と婢(ひ)がつくったものだったが、味は変わらなかった」と記録している。また、1816年(文化13)に来琉したイギリスのバジル・ホールの『大琉球島航海記』には、僚船アルセスト号の船長マクスウェル大佐ら一行が、那覇泊港北岸の聖現寺(せいげんじ)で琉球料理の接待を受けた記録があり、「りっぱな御馳走(ごちそう)と、すばらしいサキ(泡盛)であった」と報告している。1853年(嘉永6)に来琉したアメリカの海軍提督ペリー一行も、『ペリー日記』のなかに、首里王城内で琉球料理のもてなしを受けたことを記し、そのすばらしさを称賛している。
[嘉手川重喜]
特色と種類
沖縄料理の特色は、中国料理の油っこさ、日本料理の淡泊さのどちらにも偏せず、沖縄の気候風土にあった独特の料理法と味つけがくふうされている。沖縄は薩摩藩の信教の禁制もあって仏教はあまり普及せず、またそれ以前から獣肉食をタブーとする仏教的風習はなかった。1477年(文明9)沖縄に漂着した朝鮮人漁民は、「ブタ、ウシ、ヤギ、イノシシ、ニワトリなどを食膳(しょくぜん)にのせ、ブタ料理の種類の多いこと、その味つけのよさはすばらしい」と報告している(『李(り)朝実録』)。
現在でも、ブタ、ヤギ、イノシシの肉を使って薬草で煮込んだ煎(せん)じ料理があり、「うじにー」(補う)とよんでいる。栄養補給の意で、中国、朝鮮半島のほか東南アジアの影響を受けた料理である。祝膳料理に使われる「東道盆(とんだーぼん)」は、特製の琉球漆器で、丸、四角、六角など各種あり、大は高さ30センチメートル、径50センチメートルにも及ぶ。器の形、文様ともに中国的な厳正で緊張した線が特徴的である。その盆の中に5、7、9枚組などの陶磁器、漆器の皿を配し、それぞれ5、7、9品の料理を盛り付ける。
豚肉料理は種類が多く、沖縄料理の主流である。らふてー(ブタの角煮)、ブタのみそ煮、足てびち(豚足の吸い物)、みぬだる(豚肉の薄切りに黒ごまをまぶしたもの)などがある。吸い物はエラブウミヘビを使った「いらぶ」料理、ブタの内臓を使った「中身(なかみ)の吸い物」、ブタのあばら骨(そーきぶに)の吸い物などがある。煮物料理は、サトイモとその茎を主材料に、豚肉のだしで形が崩れるまで煮る「どぅるわかしー」や、さといも田楽(でんがく)などがある。鶏卵の生産の少なかった沖縄では、卵料理はあまり発達しなかったが、かまぼこに卵を入れてつくるカステラかまぼこは、甘味のある珍味で、祝膳料理には欠かせないものである。
炒(いた)め料理で代表的なものに、くーぶいりちー(昆布の炒め料理)がある。沖縄は昆布を産しないが、薩摩や大坂を経て大量の昆布が移入され、祝事や法事に昆布の煮物が幅広く使われた。日常の食生活では昆布を炒めてよく食し、くーぶいりちーは欠かせないものになっている。炒め物は一般に、「ちゃんぷるー」という。まーみな(もやし)、ラッキョウ、しまなー(カラシナ)、ごーやー(ニガウリ)、ちりびらー(ニラ)、パパイヤの未熟な実などをよく炒めて食べるが、これは沖縄の暑気に耐えるための栄養料理として、また何回も温め直して食べられる保存食としての効用をもつ。そうめんは、ゆでて吸い物にするか、炒めて食べる、そーみん(そうめん)・ぷっとぅるーがある。近年これをそーみん・ちゃんぷるーとよぶのは誤りである。
飯物は、おもに白い飯が使われるが、赤飯(せきはん)(糯米(もちごめ)を使わない)、せーふぁん(菜飯)、とぅんふぁん(豚飯)、とぅいふぁん(鶏飯)などがある。いろいろな具を飯の上にのせたり、炊き込みにしたり、味のよい肉だしのかけ汁をかけて食べる飯物は、中国料理の影響を受けている。雑炊(じゅーしー)は一般にいう雑炊(ぞうすい)とは違い、豚肉、シイタケ、そのほかの具を入れ、豚肉のだしで炊く炊き込み飯である。普通の雑炊は、ぼろぼろー・じゅーしーといって区別している。
魚料理は、海に囲まれている地域にしては少ない。これは近海で魚がとれても高温のため保存がきかないからで、また魚の種類も少ない。塩漬け、干し魚、かまぼこ、煮つけ、焼き魚などがおもである。刺身になる魚もあるが、鮮度がすぐ落ちるので、沖縄料理のフルコースのメニューに刺身はない。なまの魚を食べる方法として、酢じょうゆやみそ和(あ)えの料理があり、これらを生酢(なまし)という。これは刺身に酢じょうゆをつけて食べるもので、日本料理の酢の和え物とは違う。漬物も一般的に少ない。年中青い野菜が手に入るため、塩漬けにして保存する必要があまりないからであるが、地漬けとして、ごーやーの梅酢漬け、パパイヤのぬかみそ漬けなどがある。
[嘉手川重喜]
菓子
沖縄は昔から黒砂糖の生産地であるため、砂糖をぜいたくに使った菓子がありそうだが、ほとんど甘味のない菓子が多い。これは沖縄には茶道が発達せず、甘い菓子を必要としなかったことによるものだろう。しかし沖縄料理のフルコースのデザートに、かならず甘味の少ない菓子が出されるのは、中国の影響を受けた沖縄料理の妙味ともいえる。おもな菓子には、こーぐゎーし(落雁(らくがん))、三月菓子(揚げ菓子)、ぽーぽー(油みそ入り焼き菓子)、ちんぴん(小麦粉を砂糖で味つけして焼いたもの)、さーたーあんだぎー(小麦粉に黒砂糖や白砂糖、卵を入れて油で揚げたもの)、くじむち(葛餅(くずもち))、うむくじあんだぎー(さつまいもデンプンを練って揚げたもの)などがある。
[嘉手川重喜]