改訂新版 世界大百科事典 「琉球料理」の意味・わかりやすい解説
琉球料理 (りゅうきゅうりょうり)
琉球(沖縄)の料理。明治以前の沖縄は琉球国という小独立国であったが,日中両属の状態であったため,あらゆる面で両国の影響が大きく,料理にもそれが顕著に現れている。宮廷料理は,両国使節の接待をはじめとする各種の儀式や年中行事のため,きわめて豪華な内容のものとなっていたが,明治以後王朝の廃止に伴い,しだいにその豪華さは失われた。しかし,その一部は一般家庭にも普及して,昔日のなごりを今にとどめている。民間の料理は,自然・政治の両面における過酷な条件のもとで生き抜くために庶民が生み出したもので,琉球料理の真髄ともいうべき栄養料理である。琉球料理はブタに始まりブタに終わるといわれるほどで,ブタの頭から足の先,血液に至るまでをすべてをむだなく巧みに調理している。豚肉はすべて皮つきのまま塊で売買され,料理の種類に応じてもとめた部位を,かならず1時間くらいゆでてからそれぞれに調理する。煮込料理では,ゆでた豚肉を5cm角ほどに切り,泡盛,砂糖,しょうゆで3~4時間弱火で煮込む〈らふてー〉,骨つき肉をダイコン,コンブと煮込む汁物〈そーき骨(ぼね)のお汁〉,豚足を同じくコンブ,野菜と煮込む〈足てびち汁〉などがあり,いずれも塩,しょうゆで調味し,仕上がりにおろしショウガをそえて供する。〈いりちー〉はいため煮をさし,ゆでた豚肉を短冊に切り,各種の野菜,または刻みコンブ,切干しダイコン,かんぴょうなどの乾物をとり合わせ,しょうゆとみりんで調味した惣菜で,主材料の名を冠して〈○○いりちー〉などと呼ぶ。例えば,コンブの場合は〈くーぶいりちー〉,ダイコンの場合は〈でいくにいりちー〉という。いずれも,かまぼこ,こんにゃく,シイタケなどの短冊切りをあしらう。実だくさんの汁物は〈うんぶしい〉と呼ばれ,大切りのゆで豚,豆腐,コンブ,青菜や根菜類をとり合わせ,みそで調味する。内臓料理も発達している。代表的なものが〈なかみの吸物〉で,ブタの小腸,大腸,胃をせん切りにして,濃いだしを塩,しょうゆで吸味にととのえる。〈ひはち(蓽撥(ひはつ))〉と呼ぶ香辛料を添えるが,淡泊で上品な吸物で,人寄せのときは必ず作られる。〈ちむ(肝臓)〉,〈まめ(腎臓)〉もゆでて,からしじょうゆや酢みそで食する。〈みみがあさしみ(耳皮刺身)〉は,ほとんど軟骨であるブタの耳をせん切りにし,キュウリ,もやしなどとピーナッツ酢であえる。〈ちゃんぷるー〉は各家庭で1日1回はこしらえるというほどの料理で,味のある沖縄豆腐を主材料に,季節の野菜を組み合わせ,油でいため塩で味をととのえる。とり合わせる野菜によって〈○○ちゃんぷるー〉と呼ぶ。魚料理には〈しーくぁーさー〉という沖縄特産のカボス,スダチのようなかんきつ類の汁をかけて食べることが多い。刺身,空揚げ,その他かまぼこや〈ちきあげ〉と呼ぶ練製品にも用いる。コウイカを飾り切りにしてゆでた〈はないか〉,イカの墨を用いた〈すみのお汁〉も独特の味である。コンブの消費量は全国一といわれ,豚肉料理に必ずとり合わせ,もずく,〈あーさ〉などの海草や野菜,いも類もたっぷりと用いて豚肉の酸性をアルカリ性食品で中和させる知恵が生かされている。エラブウナギ(海蛇)は特殊な料理として珍重されるが,ヤギ料理は今も盛んである。牛肉は,以前はニンジン,コンブと煎じて薬として食したくらいで,第2次大戦後はアメリカ産の牛肉が大量に出回り,消費量も多い。めん料理は〈沖縄すば〉という中国めんに似たものを濃いブタのだしで食する。戦後の現在は,食生活の面でもアメリカの影響が大きく,伝統的な郷土料理もはげしい時代の波にもまれている。
執筆者:尚 道子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報