河内国で生産された木綿織物の総称。1638年(寛永15)刊といわれる《毛吹草》には,河内の産物のひとつとして〈久宝寺木綿〉をあげている。しかし,のちには河内各地で製織された木綿織は,いずれも河内木綿と呼ばれた。古代朝廷は渡来した綿種を各地に植えさせ,木綿の生産を奨励したが,16世紀のころにはそれも衰えていた。近世初期には大和,河内,摂津で綿作・綿織が盛んになり,その後日本各地に広まった。河内木綿の優秀さは次のように評せられた。〈河内木綿はきれいで,糸太く地の厚いのを名物とした。地の細い上品の木綿や縞木綿などを織り出すこともあるが,地太の丈夫なことを特色とした。諸国で用いられる暖簾(のれん),湯単(油単)は河内木綿に限る〉(大蔵永常《広益国産考》)。
河内木綿は農家の副業として製織され,各地へ積み送られた。大坂の木綿(毛綿とも書いた)問屋を通すのが通常であって,大坂には諸国産の木綿織を取り扱う木綿問屋や仲買が多数存在した。1780年(安永9)には江戸組10人,北組23人,東堀組20人,上町中買組50人,油町組43人,堺筋組20人,天満組43人などであった。1710年(宝永7)には,河内富田林村に木綿問屋が3軒あったし,河内各村には木綿仲買が多数発生した。河内若林村では1854年(安政1)に約4万1000反を取引した池田家のような大仲買も活躍していた。幕末・明治初期にはいったん衰微したが,明治中期よりふたたび隆盛におもむいた。原料綿糸は農家の手紡のものを使ったが,維新後は手紡糸と輸入糸を混用するようになり,日本で20番手の紡績糸ができるようになると,明治20年(1887)ころからはほとんど内地製の機械紡績糸を使用するようになった。明治期に河内,摂津で生産された綿織物は白木綿,無地紺木綿,帆木綿,真田紐,紋羽,雲斎,厚司,柳条木綿,絹綿交織,小倉,綿ネル,タオル,縮木綿,絣木綿,綿セル,金巾などであった。
執筆者:安岡 重明
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河内(大阪府南河内・北河内)地方でつくられた木綿織物。江戸初期から農家の副業として綿を栽培し、手織りで織っており、すでに産物として『日本鹿子(かのこ)』(1691)に河内木綿・久宝寺木綿がみえる。糸は太く地質が厚かったことから、のれんや幟(のぼり)、はっぴ、浴衣(ゆかた)地、ふとん地、足袋(たび)表、酒袋などに重宝されたという。もともと白木綿であったが、各地に問屋組織が生まれ、商品化されるにつれて、縞(しま)物、型染めしたものも織り出されるようになった。そして天保(てんぽう)年間(1830~44)の河内国の織出し高は200万反以上にもなったといわれる。ところが明治時代になると、外国の木綿糸が輸入される一方、洋式紡績業が移植されて、しだいに衰える。明治中期には手織り木綿は消滅し、現在は機械紡績糸による中小企業の工場がそれを受け継ぎ、木綿を織り続けている。
[角山幸洋]
『武部善人著『河内木綿史』(1981・吉川弘文館)』
近世以来おもに河内国で生産された白木綿・縞(しま)木綿・雲斎・厚司などの糸太地厚の綿布。河内は近世初期から綿作が盛んで,やがて繰綿(くりわた)・手紡糸・綿布が農家によって生産されるようになった。そのうち綿布は大永・享禄年間(1521~32)に作られ始めたともいわれるが,本格的発展は元禄年間(1688~1704)とみられる。以後河内は他の綿織物産地を圧倒して成長し1830年(天保元)頃年産300万反に達したというが,近世を通じこの水準に到達した綿織物産地は他に例がない。幕末の弘化年間(1844~48)以後河内の綿布生産は停滞し,明治期には後発産地の泉南などに押され不振となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
… 河内は木綿生産地として早くから知られ,《毛吹草》(1638序)にも名産〈久宝寺木綿〉の名がある。河内木綿は糸太の厚地で染めも洗練されておらず,大坂の商家などでは丁稚(でつち)の仕着などの服地とされ,また京坂の綿服はほとんど河内木綿を用いるなど庶民に愛用された。綿作も摂津,和泉,尾張,三河と並ぶ全国有数の地域で,明治前期の実綿生産額は河内で709.4万斤(1876‐82年平均)と全国第3位(1位は摂津で768.6万斤)であった。…
※「河内木綿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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