暖簾(読み)ノレン

デジタル大辞泉 「暖簾」の意味・読み・例文・類語

の‐れん【×簾】

《「のんれん」「のうれん」の音変化。もと、禅家でのすきまをおおい風よけとする布のとばりをいった》
商家で屋号・店名などをしるし、軒先や店の出入り口にかけておく布。また、それに似た、室内の仕切り・装飾などに用いる布。のんれん。のうれん。
店の信用・格式。「暖簾に傷がつく」
多年にわたる営業から生じる無形の経済的利益。得意先・仕入れ先関係、営業上の秘訣、信用、名声など。法律で権利とみなされることがある。
暖簾名のれんな」の略。
[類語](1カーテンとばり窓掛け日除け日覆いシェードブラインド/(2信用しん信頼信任信望人望定評評判覚え名望声望徳望人気魅力受け名誉名聞めいぶん面目体面面子メンツ一分いちぶん沽券こけん声価名声美名雷名見栄みえ面皮世間体体裁肩身

のう‐れん【×簾】

《「のう(暖)」は唐音》「のれん(暖簾)」に同じ。
「―はづし大戸を閉めて」〈浄・博多小女郎

のん‐れん【×簾】

《「のん(暖)」は唐音》「のれん(暖簾)1」に同じ。〈文明本節用集〉

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精選版 日本国語大辞典 「暖簾」の意味・読み・例文・類語

の‐れん【暖簾】

〘名〙 (「のんれん」「のうれん」の変化したもの)
① (もと、禅家で寒さを防ぐため簾(す)の隙間をおおう布のとばりをいった) 日除けなどのため掛けつるす布。おもに商家で紺色の木綿地に屋号などを染め抜いて軒先に掛けた。また、屋内の出入口や部屋の仕切りに垂らす短い布。のうれん。のんれん。
日葡辞書(1603‐04)「Norenuo(ノレンヲ) カクル」
② 一定の店舗の多年の営業活動から生ずる無形の経済的利益。また、その店の伝統や信用。屋号・商号・看板などによって表わされることが多い。得意先または仕入先関係、営業上の秘訣、販売の機会、経営の内部的組織など。老舗(しにせ)
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「旦那からのれんをもらって出店をひらくのだぜ」
③ 「のれんな(暖簾名)」の略。
④ 他企業を買収または合併するにあたって譲り受ける個々の資金の合計額を超過して支払われた額。

のう‐れん【暖簾】

〘名〙 (「のう」は「暖」の唐宋音「のん」の変化したもの)
① もと禅家で、冬季や早春の風気を防ぐために用いた垂れ幕
壒嚢鈔(1445‐46)七「禅家には不共(ふくう)の名目多く侍り。〈略〉暖簾(ノウレン)垂也」
※御伽草子・御曹子島渡(室町末)「大王扇取りなをし、錦ののうれんかきあげて」
③ (「あおのうれん(青暖簾)」の略) 江戸時代、端女郎のいる部屋の出入口に掛けた紺色ののれん。転じて、端女郎。
※随筆・吉原失墜(1674)「かたち心ざま大形なる上らうも、ちいんなくなりぬれば、くさげなるのうれんにたちまじりて」
[補注]「暖」の歴史的かなづかいを「なう」とする説もあったが、唐宋音「のん」の変化とする説に従う。

のん‐れん【暖簾】

〘名〙 (「のん」は「暖」の唐宋音) =のれん(暖簾)
尺素往来(1439‐64)「為室内之飾暖簾(のんれん)。暖席」
浮世草子好色一代男(1682)三「柿ぞめの暖簾(ノンレン)かけて女の一人暮せり」

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改訂新版 世界大百科事典 「暖簾」の意味・わかりやすい解説

暖簾 (のれん)

出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。

 暖簾は外暖簾と内暖簾とに分けられる。外暖簾は店暖簾ともいって日除けと看板を兼ね,店などで軒先や通りにわにかけるもので,古くは平安時代末ごろからあったと思われ,中世の絵巻物に描かれた町家にも散見する。しかし内暖簾ともども発達するのは近世になってからで,桃山時代などには自由で面白い図柄の暖簾がつくられた。ついで江戸時代に入ると,暖簾はますます発展し,また形式的にも整備された。江戸時代の外暖簾は縦に何条かの布を縫いつなげ,下方を縫いはずすもので,戸口の上から下までの長暖簾,半分までの半暖簾,さらに短いもののほか,横布を使う水引暖簾,店の間口いっぱいに幕を張ったような横暖簾などがある。いずれも上部に乳(ち)をつけ,棹や綱を通してかける。素材は木綿,麻が主で,色は白,紺,浅葱(あさぎ),茶などである。外暖簾の一種に縄暖簾がある。江戸時代の半ば過ぎころからのものらしく,源は下級武士相手の仕出屋からだというが,やがて飯屋や飲み屋を縄暖簾というようになった。

 内暖簾は部屋暖簾ともいうが,寝室や納戸の入口にかけるもので,古代の帳台にかけた(ちよう)のなごりであり,貴族住宅の系統を引く。このため絹地で友禅染などの華やかな模様が染め付けられているものが多い。江戸時代の町家では寝室や納戸の入口には必ず暖簾をかけたので,芝居の大道具用語でもこれを暖簾口という。こうした内暖簾の風習は現在でも秋田の本庄や北陸の金沢に残っており,嫁入りには美しい部屋暖簾を持参し,婚礼や祭りの日には夫婦の寝室にかけている。暖簾は近代に入って商店や住宅の作り方が変わったためかつてほどは使われなくなったが,現在はまた室内装飾を兼ねた間仕切として,とくに内暖簾がさかんに使われている。住宅の洋風化と生活の多様化に合わせて素材も作り方も変化し,ガラス玉や金属,プラスチックなどを使った新しい暖簾が生まれている。
執筆者:

暖簾に商標屋号などを染め抜いて看板,広告の目的にもあてられるようになったのは江戸初期ころからで,元禄・宝永(1688-1711)ころ普及したという。《守貞漫稿》には〈上の短き物を暖簾〉といい,〈下の長きを京坂にては長暖簾,江戸にては日除〉といったとある。暖簾はやがて商店の象徴となり,〈のれんが古い〉といえば,老舗(しにせ)を表すこととなり,〈のれんにきずがつく〉といえば,店の信用が損なわれることをいい,また〈暖簾分け〉は長年勤めた奉公人に対して主家の屋号,営業権を一部譲渡することをいうなど,営業権,顧客の店に対する信用を表す言葉となった。
暖簾分け
執筆者:

法律および会計上,のれんとは営業に固有な事実関係,すなわち営業上の秘訣,販路,得意先,創業の年代,名声,地理的関係などをさす。これらは法律上の物や権利ではないが,経済的価値を有する。なぜなら,これらの事実関係は長年の営業活動の沈殿物にほかならず,これらが存在することによって企業は他の同種の企業を上回る超過利益を得ることができるからである。こののれんの観念が最も早く発達したのはイギリスであり,18世紀中葉以後判例上グッド・ウィルgood willとして法的保護を与えられてきた。これらの事実関係がグッド・ウィルと称されたのは,企業の超過収益力の主たる源泉は企業に対する顧客の好意であると考えられたためである。日本では老舗あるいは営業権と称されることもあるが,のれんと総称されることが多い。それは古来,物としてののれんが商人の信用を体するシンボルと目されてきたことに因むものである。営業が組織的一体性をもって存在するのは,換言すれば,組織的一体としての営業が営業を構成する個々の財産の総計価値よりも高い経済的価値を有するのは,これらの事実関係があればこそといえる。その意味でのれんは営業の重要な構成要素であるから,営業の譲渡にさいしてのれんもまた当然譲渡される。のれんが営業を離れて独自に譲渡されることはない。また,こののれんに対し違法な加害行為がなされたとき,権利の侵害になるわけではないが(学説の中にはこれを営業権の侵害とするものもある),不法行為(民法709条)が成立すると解される。それゆえ損害をうけた者はその賠償を請求することができる。

 のれんは経済的価値を有するとはいえ,法律上の権利とはいえず事実関係にすぎないため,商法は,株式会社および有限会社の場合,のれんを有償で譲り受けるかまたは合併により取得した場合に限り,これを貸借対照表の資産の部に計上できると定める(商法285条の7)。したがって自家創設ののれんは認められない(ドイツ法をはじめ各国法に共通する立場)。のれんの計上は任意であるが,たとえば有償の承継取得であれば,営業の譲受のさい支払った対価が承継純財産額を超える超過額の分がのれんとして計上される。のれんは通常の資産と異なりその換価価値が明らかでないため,計上した場合5年以内に毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。

 会計上の取扱いもまた同様である。もっとも企業会計原則(第3の4B),財務諸表規則(27,28条)ではのれんは営業権と称されている。もちろん法律上の権利を意味するわけではない。また,企業会計原則,財務諸表規則はとくに商号権をのれんを意味するこの営業権に含めている。商号権は商標権等の他の無体財産権と同じく本来法律上の権利であるから,事実関係にすぎないのれんと区別できるはずであるが,そうした取扱いをしていない。商法上の解釈にさいしてもこの会計上の取扱いに従うものが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暖簾」の意味・わかりやすい解説

暖簾
のれん

(1) 一般には,商店が宣伝用などに掛ける屋号や商品名を記した布製の店印をいう。もとは禅寺で冬季の隙間風を防ぐために簾の間を覆った垂れ幕のこと。すでに平安・鎌倉時代の絵巻物などに,家の出入口に下げたものがみられ,幌(とばり)と呼ばれていた。これが室町時代末期から暖簾(垂れむしろの意)と呼ばれるようになった。埼玉県川越市の喜多院蔵『紙本著色職人尽絵』の畳師の絵に図柄を見ることができる。桃山時代頃から屋号を意味するものを書くようになり,江戸時代になると,紺色以外のものやいろいろな長さのものも用いられるようになり,さらには暖簾が商店の信用を表すシンボルともなった。
(2) 多年にわたる営業の継続によって商人が得る無形の経済的利益。老舗(しにせ)ともいい,グッドウィル goodwillに相当する。その内容は得意先関係,仕入先関係,営業の名声,信用,営業上の秘訣などで,はっきりした権利とはいえないが,経済的価値のある事実関係である。会社法は暖簾について,組織再編行為において存続会社や事業の譲受会社などが支払った価格と,取得した資産および引き受けた負債に配分された額を超過した場合に計上することのできる差額概念ととらえている(会社計算規則11)。暖簾は 20年以内の合理的な方法で規則的に償却すべきものとされる(企業結合会計基準32項)。

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百科事典マイペディア 「暖簾」の意味・わかりやすい解説

暖簾【のれん】

軒先につるして日よけや目隠しとした布の帳(とばり)。元来は禅家で冬の寒さを防ぐため簾(す)のすき間をおおった布。近世に普及し,屋号を染めぬいて商家の目印とした。これより転じて店の信用や営業権(企業権)を意味する言葉となり,番頭を務めあげた者が主家の屋号を分与され,別家して同業を営むことを暖簾分けといった。今日,営業において財産的価値のある事実関係(営業上の秘訣(ひけつ),得意先,名声等を含む)は暖簾と呼ばれ,営業とともに譲渡され,その侵害は不法行為となる。商法改正(1962年)で,暖簾を有償取得した場合は貸借対照表の資産の部に計上しうるに至った。
→関連項目看板資産

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家とインテリアの用語がわかる辞典 「暖簾」の解説

のれん【暖簾】

➀商店で、商標や屋号などを染め抜き、軒先に日よけ用に吊るしておく布。
➁室内の目隠し・間仕切り・装飾用に出入り口などにたらす布。◆もとは禅寺で、冬の寒さを防ぐため、簾(すだれ)のすき間をおおうために重ねて用いた布をいった。

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ブランド用語集 「暖簾」の解説

暖簾

暖簾とは歴史や実績、顧客の愛顧などに裏打ちされた企業の信用のことをいう。あるいは株式時価総額と純資産額との差額に基づく無形資産価値のことをいう。

出典 (株)トライベック・ブランド戦略研究所ブランド用語集について 情報

デジタル大辞泉プラス 「暖簾」の解説

暖簾

日本のポピュラー音楽。歌は男性演歌歌手、五木ひろし。1989年発売。作詞・作曲:永井龍雲。

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世界大百科事典(旧版)内の暖簾の言及

【暖簾】より

…出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。…

【暖簾】より

…出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。…

【看板】より

…最も一般的な店の標示で,近世から現代にかけて,日本・中国・欧米諸国を主とし,広く全世界各地で発達したものである。日本では看板,中国では招牌(チヤオパイ)・望子(ワンズ)または幌子(ホワンズ)と呼ばれ,英語ではサインボードsignboard,あるいはサインsign,フランス語ではアンセーニュenseigne,ドイツ語ではツァイヘンZeichenと呼ばれている。看板は広告塔・はり紙などとともに屋外広告物に含まれ,常時または一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものとされている。…

【資産】より

…一般に,特定の実体によって所有されていて,その実体にとって有用性を有する物財および権利で貨幣価値のあるものをいう。現金は典型的な資産である。したがってまた現金への請求権(債権)も資産であり,さらに,現金と交換される物財,すなわち購入される物財も資産である。物財のみならず,地上権,借地権,特許権,商標権等の財産上の権利もまた資産である。会計的には,資産は特定の企業が有する現金,および現金支出の結果であって,将来において収益をもたらす潜在的能力をもつ物財および権利であり,企業総資本の具体的運用形態を表すものである。…

【のれん分け(暖簾分け)】より

…商家などで奉公人に別家を許すこと。17世紀以降,商人や職人の家屋の軒先に屋号,商品,商標などをデザイン化した暖簾を出すのが一般的になった。商人や職人が暖簾を重視するようになったのは,家業という特定の営業権や技術をもつ経営が成立していったことによる。…

※「暖簾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」