デジタル大辞泉 「暖簾」の意味・読み・例文・類語
の‐れん【▽暖×簾】
1 商家で屋号・店名などをしるし、軒先や店の出入り口にかけておく布。また、それに似た、室内の仕切り・装飾などに用いる布。のんれん。のうれん。
2 店の信用・格式。「
3 多年にわたる営業から生じる無形の経済的利益。得意先・仕入れ先関係、営業上の秘訣、信用、名声など。法律で権利とみなされることがある。
4 「
[類語](1)カーテン・
「暖」の歴史的かなづかいを「なう」とする説もあったが、唐宋音「のん」の変化とする説に従う。
出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。
暖簾は外暖簾と内暖簾とに分けられる。外暖簾は店暖簾ともいって日除けと看板を兼ね,店などで軒先や通りにわにかけるもので,古くは平安時代末ごろからあったと思われ,中世の絵巻物に描かれた町家にも散見する。しかし内暖簾ともども発達するのは近世になってからで,桃山時代などには自由で面白い図柄の暖簾がつくられた。ついで江戸時代に入ると,暖簾はますます発展し,また形式的にも整備された。江戸時代の外暖簾は縦に何条かの布を縫いつなげ,下方を縫いはずすもので,戸口の上から下までの長暖簾,半分までの半暖簾,さらに短いもののほか,横布を使う水引暖簾,店の間口いっぱいに幕を張ったような横暖簾などがある。いずれも上部に乳(ち)をつけ,棹や綱を通してかける。素材は木綿,麻が主で,色は白,紺,浅葱(あさぎ),茶などである。外暖簾の一種に縄暖簾がある。江戸時代の半ば過ぎころからのものらしく,源は下級武士相手の仕出屋からだというが,やがて飯屋や飲み屋を縄暖簾というようになった。
内暖簾は部屋暖簾ともいうが,寝室や納戸の入口にかけるもので,古代の帳台にかけた帳(ちよう)のなごりであり,貴族住宅の系統を引く。このため絹地で友禅染などの華やかな模様が染め付けられているものが多い。江戸時代の町家では寝室や納戸の入口には必ず暖簾をかけたので,芝居の大道具用語でもこれを暖簾口という。こうした内暖簾の風習は現在でも秋田の本庄や北陸の金沢に残っており,嫁入りには美しい部屋暖簾を持参し,婚礼や祭りの日には夫婦の寝室にかけている。暖簾は近代に入って商店や住宅の作り方が変わったためかつてほどは使われなくなったが,現在はまた室内装飾を兼ねた間仕切として,とくに内暖簾がさかんに使われている。住宅の洋風化と生活の多様化に合わせて素材も作り方も変化し,ガラス玉や金属,プラスチックなどを使った新しい暖簾が生まれている。
執筆者:小泉 和子
暖簾に商標,屋号などを染め抜いて看板,広告の目的にもあてられるようになったのは江戸初期ころからで,元禄・宝永(1688-1711)ころ普及したという。《守貞漫稿》には〈上の短き物を暖簾〉といい,〈下の長きを京坂にては長暖簾,江戸にては日除〉といったとある。暖簾はやがて商店の象徴となり,〈のれんが古い〉といえば,老舗(しにせ)を表すこととなり,〈のれんにきずがつく〉といえば,店の信用が損なわれることをいい,また〈暖簾分け〉は長年勤めた奉公人に対して主家の屋号,営業権を一部譲渡することをいうなど,営業権,顧客の店に対する信用を表す言葉となった。
→暖簾分け
執筆者:宮本 又郎
法律および会計上,のれんとは営業に固有な事実関係,すなわち営業上の秘訣,販路,得意先,創業の年代,名声,地理的関係などをさす。これらは法律上の物や権利ではないが,経済的価値を有する。なぜなら,これらの事実関係は長年の営業活動の沈殿物にほかならず,これらが存在することによって企業は他の同種の企業を上回る超過利益を得ることができるからである。こののれんの観念が最も早く発達したのはイギリスであり,18世紀中葉以後判例上グッド・ウィルgood willとして法的保護を与えられてきた。これらの事実関係がグッド・ウィルと称されたのは,企業の超過収益力の主たる源泉は企業に対する顧客の好意であると考えられたためである。日本では老舗あるいは営業権と称されることもあるが,のれんと総称されることが多い。それは古来,物としてののれんが商人の信用を体するシンボルと目されてきたことに因むものである。営業が組織的一体性をもって存在するのは,換言すれば,組織的一体としての営業が営業を構成する個々の財産の総計価値よりも高い経済的価値を有するのは,これらの事実関係があればこそといえる。その意味でのれんは営業の重要な構成要素であるから,営業の譲渡にさいしてのれんもまた当然譲渡される。のれんが営業を離れて独自に譲渡されることはない。また,こののれんに対し違法な加害行為がなされたとき,権利の侵害になるわけではないが(学説の中にはこれを営業権の侵害とするものもある),不法行為(民法709条)が成立すると解される。それゆえ損害をうけた者はその賠償を請求することができる。
のれんは経済的価値を有するとはいえ,法律上の権利とはいえず事実関係にすぎないため,商法は,株式会社および有限会社の場合,のれんを有償で譲り受けるかまたは合併により取得した場合に限り,これを貸借対照表の資産の部に計上できると定める(商法285条の7)。したがって自家創設ののれんは認められない(ドイツ法をはじめ各国法に共通する立場)。のれんの計上は任意であるが,たとえば有償の承継取得であれば,営業の譲受のさい支払った対価が承継純財産額を超える超過額の分がのれんとして計上される。のれんは通常の資産と異なりその換価価値が明らかでないため,計上した場合5年以内に毎決算期に均等額以上を償却しなければならない。
会計上の取扱いもまた同様である。もっとも企業会計原則(第3の4B),財務諸表規則(27,28条)ではのれんは営業権と称されている。もちろん法律上の権利を意味するわけではない。また,企業会計原則,財務諸表規則はとくに商号権をのれんを意味するこの営業権に含めている。商号権は商標権等の他の無体財産権と同じく本来法律上の権利であるから,事実関係にすぎないのれんと区別できるはずであるが,そうした取扱いをしていない。商法上の解釈にさいしてもこの会計上の取扱いに従うものが多い。
執筆者:森 淳二朗
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…出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。…
…出入口などにかける帷(かたびら)。古くは幌(とばり)と呼び,室町時代から暖簾と変わったが,当時はノウレンとかナンレンといった。〈暖簾〉は禅林用語で,禅堂の入口に夏期かける涼簾に対し,冬期寒さを防ぐために簾といっしょにかける帷をいった。…
…最も一般的な店の標示で,近世から現代にかけて,日本・中国・欧米諸国を主とし,広く全世界各地で発達したものである。日本では看板,中国では招牌(チヤオパイ)・望子(ワンズ)または幌子(ホワンズ)と呼ばれ,英語ではサインボードsignboard,あるいはサインsign,フランス語ではアンセーニュenseigne,ドイツ語ではツァイヘンZeichenと呼ばれている。看板は広告塔・はり紙などとともに屋外広告物に含まれ,常時または一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものとされている。…
…一般に,特定の実体によって所有されていて,その実体にとって有用性を有する物財および権利で貨幣価値のあるものをいう。現金は典型的な資産である。したがってまた現金への請求権(債権)も資産であり,さらに,現金と交換される物財,すなわち購入される物財も資産である。物財のみならず,地上権,借地権,特許権,商標権等の財産上の権利もまた資産である。会計的には,資産は特定の企業が有する現金,および現金支出の結果であって,将来において収益をもたらす潜在的能力をもつ物財および権利であり,企業総資本の具体的運用形態を表すものである。…
…商家などで奉公人に別家を許すこと。17世紀以降,商人や職人の家屋の軒先に屋号,商品,商標などをデザイン化した暖簾を出すのが一般的になった。商人や職人が暖簾を重視するようになったのは,家業という特定の営業権や技術をもつ経営が成立していったことによる。…
※「暖簾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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