流出説(読み)リュウシュツセツ(英語表記)theory of emanation

デジタル大辞泉 「流出説」の意味・読み・例文・類語

りゅうしゅつ‐せつ〔リウシユツ‐〕【流出説】

哲学で、最高存在たる神から万物が段階的に流出し、しだいに低いもの、不完全なものに至るとする形而上学説新プラトン学派グノーシス派宇宙論などにみられる。発出論。エマナチオ

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精選版 日本国語大辞典 「流出説」の意味・読み・例文・類語

りゅうしゅつ‐せつ リウシュツ‥【流出説】

〘名〙 哲学の学説。新プラトン派・グノーシス派などのとなえた宇宙論で、不可知の最高存在の神から段階的にさまざまな存在が展開され、最後に悪や不完全な存在に流出するにいたるとする説。エマナチオの説。→エマナチオ

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改訂新版 世界大百科事典 「流出説」の意味・わかりやすい解説

流出説 (りゅうしゅつせつ)
theory of emanation

最高の〈一者〉から万物が出ることを,泉から水が流れ出ることにたとえた形而上学説。最初は古代ギリシアで,エンペドクレスデモクリトス知覚説にこれがみられる。それによると,物体の知覚像はその物体の表面が剝離して感覚器官のうちに入ってきたものだという。ヘレニズム期のグノーシス派(とくにエジプトのグノーシス派)は,神と世界の無限の隔りにもかかわらず神認識が成立するのはいかにしてかと問い,神の顕現水源または光源たる神からの流出(ギリシア語アポロイアaporrhoia,ラテン語エマナティオemanatio)ないし放射(ギリシア語プロボレprobolē)であると考えた。新プラトン派のプロティノスもこの比喩を用いて一者と世界との関係を説明したが,グノーシス派と違って,流出は〈一者〉の実体の減少を意味しないことを強調した。したがって,〈一者〉からの流出は必要に迫られてのものでなく,むしろ自由な働きによること,完全者は完全であればこそ自己を溢出させることを説いた。そこで流出説はキリスト教のいう〈無からの創造〉とも矛盾しないとみられ,ボエティウストマス・アクイナスはこれを創造の説明原理に用いたのであるが,世界の固有な善を説明するためにプラトンの分有説をも平行して用いた。近代ではライプニッツ,シェリング,ヘーゲルが絶対者の神性と力を表すのに流出説を用いたが,汎神論に陥るのを避けて意志の自由をもあわせて説いている。
新プラトン主義
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「流出説」の意味・わかりやすい解説

流出説
りゅうしゅつせつ
Emanationslehre

世界 (多) を根源的一者 (一) からの流出と考える哲学的,神学的世界解釈。流出説の典型は新プラトン派やプロチノスの段階的流出説に見出される。第一者あるいは善から,この第一者に次ぐよきもの (第一者の模像) としての理性が流出し,次いでこの自己の内にイデアすなわち思惟対象としての多を有し思惟を本質的機能とする超越的理性と感覚的世界,すなわち自然の仲介者として働く世界霊魂が流出すると考える。無からは何も生じないという基本的前提をもち,無からの創造を説くキリスト教の神との間には本質的相違がある。流出説は,新プラトン派のほか,グノーシス派,インド哲学 (ベーダーンタ派) などによって唱えられたが,イスラム哲学やキリスト教哲学などにも少なからぬ影響を及ぼした。

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百科事典マイペディア 「流出説」の意味・わかりやすい解説

流出説【りゅうしゅつせつ】

万物の生成と展開を〈一者〉からの流出(ギリシア語aporrhoia,ラテン語emanatio)ないし放射の喩えで説く形而上学説。グノーシス主義新プラトン主義に典型的で,中世キリスト教神学,ドイツ観念論などにも引き継がれた。

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世界大百科事典(旧版)内の流出説の言及

【新プラトン主義】より

…これは完全な充実であり,あらゆる認識,生命,本質,存在を超越する。(2)〈流出〉 〈一者〉から〈叡智〉が,〈叡智〉から〈魂〉が,あたかもあふれる水のように流出する(流出説)。下のものは上のものと本質を同じくするが,勢いや力の劣った存在形態であり,三つの原理的なものは階層的秩序を保ちながら,しかも連続している。…

【光の形而上学】より

…彼は〈一者〉から発出する非物質的光は徐々に滅してゆき,ついには闇としての物質に至り,その過程で〈ヌース〉〈世界霊魂〉〈人間霊魂〉が発生してくると説く。この新プラトン主義的流出説は,ヨーロッパおよびアラビア世界に後代さまざまな思索を結晶させた。 アウグスティヌスは,知的光たる神が真理の必然性と永遠性を人間精神に開示するとの照明説を唱え,偽ディオニュシウスは,感覚的な光は神的な光の内在と超越を象徴するものとみなし,万物が〈光の父〉なる神から発出・放射し,還帰することを説き,キリスト教的象徴主義の一大源泉となった。…

【プロティノス】より

…一般にギリシアの伝統的存在理解では,明確な輪郭・限定をもつものほど確かな存在であるとすれば,“無限の”存在はこれと対照をなすものと言える。しかも万物が〈一者〉から流出しているという動的な一元論の体系(流出説)は,ここにおいて構想されえたのである。《エンネアデス》は,4世紀にウィクトリヌスにより,ルネサンス期にフィチーノによりラテン語に翻訳されて,ヨーロッパ世界の共有財産となり,キリスト教プラトン主義の源泉となった。…

※「流出説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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