中央銀行が公開の金融市場(オープン・マーケット)で、通貨量を調節する金融政策の一手段。英語表記はopen market operationで、日本ではオペレーション、略してオペとよばれる。通常、景気がよく資金需要が旺盛(おうせい)な場合やインフレが進行している場合、中央銀行は国債や手形などを市場に売却して市中の資金を吸収し、金利を引き上げるように誘導(金融引締め)し、景気の過熱やインフレを抑える。これを売りオペレーション(売りオペ)という。逆に、景気低迷時やデフレ進行時のほか、金融危機や大災害などの緊急事態の際には、国債などを市場から買い入れて市中に潤沢に資金を供給し、金利引下げ(金融緩和)で景気を刺激・下支えする。これを買いオペレーション(買いオペ)とよぶ。公開市場操作の誘導目標として、代表的な短期金利(政策金利とよぶ)やマネタリーベース(通貨供給量)が採用されることが多い。政策金利として、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)はフェデラル・ファンド金利(FF金利)を、日本銀行(日銀)は無担保コール翌日物金利を採用。公開市場操作は国債、地方債、財投機関債、国庫短期証券、社債、CP(コマーシャルペーパー)、手形、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT(リート))など担保価値のある資産の売買で実施される。あらかじめ定めた期日に売り戻す(買い戻す)条件で国債などを買い入れる(売り払う)現先(げんさき)オペという手法もあり、短期間の資金需給の調節機能を担っている。公開市場操作は、中央銀行の景況感を市場参加者にストレートに伝えられる効果がある。かつては公定歩合改定、預金準備率操作も重要な金融政策手段であったが、金融・債券市場の発達や金融自由化の進展に伴い、1990年代以降、主要な中央銀行は公開市場操作を主たる金融政策手段としている。
日本では、1932年(昭和7)以降、満州事変で日銀が大量に引き受けた国債を活用し、金融機関相互のコール市場で公開市場操作を開始。第二次世界大戦を経て、1949年(昭和24)に相対(あいたい)売買による国債オペを、1972年に手形オペを、1989年(平成1)5月にはCPオペを開始し、操作対象・手法を多様化してきた。2021年(令和3)からは長期金利の上昇抑制のため、新発10年物国債を無制限に購入する指値(さしね)オペを実施している。
日銀は長く公定歩合改定を最重要の金融政策手段と位置づけてきたが、1995年からは短期金利を誘導する公開市場操作を通じて金融市場調節を行うようになった。また、2013年(平成25)に短期金利からマネタリーベースへと公開市場操作の目標を転換し、2016年にはマイナス金利を誘導目標に加え、いずれも公開市場操作を主たる金融政策手段とした。なお、日本では、経済成長に伴う資金供給は国債を使い、短期的な金融調節には手形など国債以外の金融資産で、公開市場操作を実施している。
[矢野 武 2022年8月18日]
貸出政策(割引政策,公定歩合政策ともいう)および支払準備率操作と並ぶ,中央銀行の伝統的な金融政策手段の一つ。具体的には,中央銀行が公開市場において手形,政府短期証券(財務省証券=TBなど),国債などの売買を行い,中央銀行信用やベース・マネー(現金と中央銀行預け金の合計。マネタリー・ベース,ハイパワード・マネーともいう)を増減させることを指す。
ここでいう公開市場とは,銀行間市場inter-bank marketと対置される概念で,日本のコール市場,手形売買市場,あるいはアメリカのフェデラル・ファンド・マーケットのように,中央銀行と民間銀行という銀行だけが参加できる銀行間市場とは異なり,銀行以外の企業や個人も参加できる金融市場を指す。具体的には,日本の場合は国債流通市場,現先市場,CD(譲渡性預金)市場があり,アメリカの場合には,国債流通市場のほか,TB,CD,BA(銀行引受手形),CP(コマーシャル・ペーパー)の市場などが広範に存在する。貸出政策や準備率操作,あるいは銀行間市場における手形売買操作によって中央銀行信用,あるいはベース・マネーを増減させた場合には,民間銀行の支払準備の増減と銀行間市場金利の変動が生じ,その結果民間銀行がその資産(貸出し,国債,TB,手形など)や負債(預金,CDなど)の量と金利を調節し,そこからマネー・サプライ,銀行信用などの量と各種金利の変動が生まれて経済活動へ影響が及んでいく。その意味でこの政策効果波及経路は間接的である。これに対して,公開市場におけるTBや国債の売買によって中央銀行信用,あるいはベース・マネーを増減させた場合には,民間銀行の支払準備の増減と銀行間市場金利の変動を始発点とする上記の間接的な効果波及経路が働くだけではなく,銀行以外の民間経済主体(企業,個人など)の資産と負債,つまりマネー・サプライや銀行信用の量と金利が同時に変動するので,経済活動への影響が直接に及ぶ。このため,中央銀行の伝統的な政策手段のうち,公開市場操作の効果は最も迅速かつ強力である。
金融市場は,通常,銀行間市場から発達し,民間部門の流動性が十分に蓄積され,預金以外の市場性金融資産に対するニーズが出るようになると,公開市場が発達しはじめる。したがって,公開市場操作が最も強力な政策手段であることがわかっていても,金融市場組織の未発達な段階では使えない。公開市場操作が最初に実施されたのは,金融市場組織が最も早く発達したイギリスで,19世紀後半のことである(対象は国債)。1920年代にはアメリカでも活発に行われるようになり,今日では両国ともTBを対象とする公開市場操作が金融政策の中核的な手段となり,貸出政策は補完的手段である。日本では,TBの発行金利が規制されTB市場が限られているため,TB操作はまれで,国債の操作がときおり実施されるものの,中核的手段は貸出政策と銀行間市場における手形売買操作である。
→金融政策
執筆者:鈴木 淑夫
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…日本では日本銀行が金融政策の直接の責任者であるが,金融市場に大きな影響を与える国債の種類,発行条件,借換債の種類,条件等の決定は大蔵大臣によって,また郵便貯金の金利は郵政大臣が郵政審議会に諮問し政令で定められる。 日本銀行の行う金融政策については,1949年6月の日本銀行法の一部改正によって日本銀行政策委員会が設けられ,公定歩合の決定,公開市場操作実施の方針,市中金利の最高限度の決定,準備預金制度の準備率の決定・変更等はすべてこの政策委員会によって決定される。政策委員会は日本銀行総裁のほか金融,商工業,農業に関し経験と識見をもつ者,大蔵省,経済企画庁の代表者の7人によって構成される。…
※「公開市場操作」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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