葉山嘉樹の長編小説。1923年(大正12),名古屋の刑務所の中で書き上げられ,26年に改造社から刊行。第1次世界大戦のころ,室蘭・横浜航路の石炭貨物船万寿丸では,さまざまなタイプの海上労働者たちが,冷酷,残忍な船長の下で,生命を危険にさらしながら働いていた。搾取されつつ生きていた彼らが,やがて人間的正義と階級意識とにめざめて団結し,闘争に立ち上がっていく姿を,活気にあふれる文章で描いている。葉山自身の船員体験や労働運動の経験をふまえ,またマルクスやドストエフスキーの思想的,文学的な影響を受けて構想された雄壮な長編。小林多喜二らに影響をあたえたプロレタリア文学の記念碑的な傑作である。
執筆者:木村 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
葉山嘉樹(よしき)の長編小説。1926年(大正15)10月改造社刊。第一次世界大戦期、暴風雪を冒し室蘭(むろらん)港を出た石炭船万寿丸は、難破船の救助信号を黙殺し、負傷したボーイ長の手当てをせず横浜に向かう。こういう非人間的な海上生活のなかで、下級船員たちは階級意識に目覚め、ストライキを敢行し勝利するが、横浜で迎えていたのは指導者たちの逮捕であった。作者の下級船員体験や労働運動体験などをもとに獄中で書かれた。ユーモアを含むリアリズムを基調に、新鮮な表現と文体で海上労働者の生活、意識とその成長がよくとらえられ、新しい階級的な文学の成功を実作上で実証し、次の世代の小林多喜二(たきじ)らに深い影響を与えた。
[祖父江昭二]
『『葉山嘉樹全集1』(1975・筑摩書房)』
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