海流のエネルギーを利用する発電。一般に、動く物の運動エネルギーは、「質量×速さの2乗×0.5」であるが、エネルギーの利用を図る場合には、エネルギーが流れる(補給される)速さも考えなければならない。これを考えると利用対象は、エネルギーにさらに「速さ」を掛けた量すなわち「工率(仕事率)」となる。工率は、速さの3乗に比例し、国際単位系での単位はワット(W)である。たとえば、幅100キロメートル、深さ100メートルの鉛直断面を、毎秒1メートルの速さで海水が流れる(黒潮程度の海流の表層部に相当する)ときの工率は5ギガワット(GW)である。ある見積りによる工率は、黒潮では8ギガワット、フロリダ海流では25ギガワット、太平洋の赤道潜流では20ギガワットとなっている。海流エネルギー利用の可能性は、アメリカや日本などで検討されてきた。しかし、強い海流は普通海岸から遠い沖合を流れる、海底が深い、装置の係留と保守がやさしくない、などの理由で、当分実用化の見込みはないようである。
流れを利用するという点で似ているのは、潮流エネルギーの利用である。流れの向きや速さが変わるという点はぐあいが悪いが、強い潮流は海峡など陸地に近く浅い所を流れるので、海流に比べれば利用しやすい。小規模の潮流水車は11世紀からフランスなどで使われていた。
[高野健三]
『「黒潮の運動エネルギーの段階的開発利用に関する調査報告――発電への利用を中心として」(『科学技術庁資源調査会報告』第82号・1979)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報