運動エネルギー(読み)うんどうえねるぎー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「運動エネルギー」の意味・わかりやすい解説

運動エネルギー
うんどうえねるぎー

速度vで運動している質量m質点は、同じ位置で静止しているときよりも(1/2)mv2だけエネルギーを多く有している。このエネルギーを運動エネルギーという(図A)。

 質点の集まり、すなわち質点系の運動エネルギーは、各質点の運動エネルギーの和になる。この場合、質点系の質量中心の運動エネルギーと質点系内の相対運動の質点エネルギーとの二つの項に分けることができる。広がりをもつ物体の場合には、物体を質量Δmの微小な部分に分け、各部分の運動エネルギー(1/2)Δmv2総和をとれば、広がりをもつ物体の運動エネルギーを求めることができる。この場合、速度vは一般に物体の各部分ごとに異なる。物体が剛体とみなしてよい場合には、物体全体の運動を質量中心の運動と、質量中心を通る一つの決まった軸の周りの物体の回転運動とで表すことができる。物体の回転軸の方向は一般に時々刻々変化している。各瞬間における回転軸の周りの剛体の回転の速さ、すなわち角速度をω、剛体の全質量をM、質量中心の速度をvとすれば、その運動エネルギーは

となる。I0は、剛体の密度分布とこの瞬間の質量中心を通る回転軸の方向とで定まる量で、慣性モーメントという。この表式は剛体の各部分の運動エネルギーを総和して得られる。

 剛体が図Bのように一つの固定した軸の周りを角速度ωで回転しているとき、その運動エネルギーは、固定軸の周りの質量中心の回転運動のエネルギーと、質量中心を通る軸の周りの剛体の回転運動のエネルギーとの和になる。両方の回転とも角速度はωに等しく、質量中心を通る回転軸は固定軸に平行である。質量中心の速度をv、質量中心と固定軸の距離をRとすると、v=Rωであり、回転運動のエネルギーT

となる。I=I0+MR2は回転軸の周りの慣性モーメントであって、これを用いると運動エネルギーは

となる。相対性理論では、静止質量m0の質点が慣性系に対してvの速度を有するとき、その全エネルギーは

となる。cは光の速さである。したがって、この場合の運動エネルギーは、全エネルギーから速度によらない静止エネルギーm0c2を除いた

となる。vcに比べて小さいときには、この値はほぼ(1/2)m0v2という非相対論的な場合の運動エネルギーに等しくなる。

田中 一]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「運動エネルギー」の意味・わかりやすい解説

運動エネルギー
うんどうエネルギー
kinetic energy

速さ v で運動する質量 m の物体は,静止するまでに他に対して mv2/2の仕事ができる。 mv2/2をこの運動物体がもつ運動エネルギーという。角速度ωで回転運動する物体の回転軸に関する慣性モーメントI ならば,この物体がもつ回転の運動エネルギーは Iω2/2である。相対論的力学では,光の速さを c とすれば,静止質量 m0,速さ v の物体は相対論的エネルギー をもつ。物体は静止(v=0)のときでも静止エネルギーm0c2をもつから,運動しているための余分のエネルギーが運動エネルギー K であって,K は次式で与えられる。
vc に比べて十分に小さいときは Km0v2/2となり,ニュートン力学での値に一致する。

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