温泉生物(読み)おんせんせいぶつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「温泉生物」の意味・わかりやすい解説

温泉生物
おんせんせいぶつ

温泉地域にすんでいる生物。温泉生物のうち植物に関してはスウェーデン藻類学者アガルドC. Agardhが、1827年にチェコカールスバートの温泉中で藻類コンフェルバConfervaを発見し、動物ではイタリアの博物学者スパランツァーニが、イタリアのピサ付近の温泉地(44℃)でカエルの一種Cocchiを発見したのが最初である。欧米では温泉地域におけるおもな動物相、植物相は19世紀中にほぼ調べられたが、日本では、植物が1874~1875年(明治7~8)にドイツの地理学者ラインJ. J. Reinによって箱根温泉から藻類が採集されたのが最初で、また動物では生物学者服部(はっとり)広太郎が1902年(明治35)に別府温泉魚類を発見したのが最初である。その後現在に至るまで、細菌類、藻菌類のほか、植物では藍藻(らんそう)類、鞭毛藻(べんもうそう)類、珪藻(けいそう)類、緑藻類褐藻類紅藻類蘚苔(せんたい)類、シダ植物類、単子葉植物類があり、細菌類と藻菌類をあわせると約700種、動物では原生動物、腔腸(こうちょう)動物、扁形(へんけい)動物、袋形動物(主としてワムシ類)、環形動物、軟体動物(主として貝類)、節足動物(主として昆虫類、甲殻類)、脊椎(せきつい)動物(魚類と両生類)が約300種の合計約1000種の温泉生物が数えられている。

 温泉動物は普通の淡水性のものが二次的に温泉水中に移行したものと考えられているが、植物の場合は、生物進化のごく初期の段階では、その環境が、現代の火山地帯の温泉地にきわめてよく似た状況と考えられているので、そこに発生した最初の植物は、現存の単細胞性藍藻類に近い形態をした有機体であり、やがて葉緑素が形成されて、光合成を営むようになり、さらに長年月を経て、葉緑素は葉緑体という細胞器官に収められるようになると、現代の植物分類では、藍藻より進化した紅藻類中の単細胞性藻類に進化する。ちょうどこのような進化の段階にあると考えられる藻類が温泉にみいだされる。イデユコゴメCyanidium caldarium Geitlerである。イデユコゴメは世界の温泉に広く分布しており、藻類の進化を知るための好材料である。本植物は日本各地の温泉に多産するが、好例の一つは北海道登別温泉(のぼりべつおんせん)の湯沼に生育する本種である。沼のエメラルドグリーンの水色は本種に起因するものであり、同温泉の地獄谷の底の泥、砂、礫(れき)上にはすべて本種が沈積している。

[廣瀬弘幸]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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