デジタル大辞泉 「水色」の意味・読み・例文・類語
みず‐いろ〔みづ‐〕【水色】
[類語]青・真っ青・
海,河川,湖沼などの色をいう。これらの色は,水中に入射した太陽光が水分子,溶存物質,懸濁物質によって選択吸収と散乱の効果を受け,ふたたび水面に出てきたときの分光組成によって決まる。以下では海の色について説明する。
溶存物質や懸濁物質の非常に少ない外洋水の海の色は藍青色であるが,これは主として水分子が長波長を強く吸収すること,および強度が波長の4乗に逆比例するレーリー散乱によって水分子が短波長光をより強く散乱する結果である。海の色は一般に外洋から沿岸にいくにしたがい青色から緑色へと変化する。これは短波長の光を吸収する植物プランクトンと黄色物質と呼ばれている溶存有機物質が沿岸に近づくほど増加するためである。さらに内湾ではしばしば褐色または赤褐色を呈する。これは赤潮と呼ばれ,ある種の植物プランクトンの大増殖によって,海の色がおもにプランクトンの選択吸収および散乱によって支配されるためである。このように海の色は溶存物質と懸濁物質の組成と量によって変化するため,それらを示す指標ともなりうる。そのため一般海洋観測では海面直上から見た海の色を水色と呼び,水温,塩分量,透明度などとともに測定し,水塊分析の一手段としている。
水色の測定にはフォーレルF.A.Forelが考案した水色標準液が用いられている。沿岸や内湾の色のように海水が褐色を帯びている場合はウーレW.Uleの水色標準液を用いる。フォーレル水色標準液は藍青色から黄緑色まで,ウーレ水色標準液は黄緑色から赤褐色まで,ともに11段階に分類されている。水色の測定は海の色に最も近い標準液をこの中から選定することである。この方法は簡単であるが,測定者の主観が入るうえ,標準液の明度が実際の海の色と比べて高すぎるという欠点がある。最近では回折格子分光器を用いた水中分光放射計が開発され,海中光の分光分布が測定できるようになった。このため,海面に向かう光の分光分布の測定値からCIE表色法で色度座標を計算して海の色を色度図上に表す方法も行われている。この方法によるとフォーレルやウーレの水色計を用いる方法に比べて客観的に海の色を表すことができる。
先に述べたように海の色は海水中の物質によって影響を受けるが,特に植物プランクトンによる影響が大きい。海の上層の葉緑素濃度はその海域の植物プランクトン量の指標となるから,海の色の測定から海洋の基礎生産や漁場に関連する植物プランクトンの量に関する情報を得ることができる。近年,航空機や人工衛星から海の色を測定して海洋環境を探査するリモートセンシング技術が開発されつつある。この技術を用いて,海洋の植物プランクトンの分布や河川から排出される濁水の拡散状況などを,定性的ではあるが広範囲にわたって把握できるようになった。高空で得た水中情報の定量的解析にはまだ幾つかの解決すべき問題が残されているが,将来,海の色のリモートセンシングによって漁場の探査や人工的汚染水の分布拡散状況の広域監視なども可能となるであろう。
執筆者:岡見 登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
湖沼や海、河川などの水の色。湖面や海面を上方から見下ろすと、晴天の日には青く、曇天や雨天の日には灰色に見える。これは水中よりの反射光または散乱光に加えて、空の色が映ったためである。天候によって支配されない水中から出てくる光だけを測定するには、底が透視できない深い所で、舟の陰や海岸の山陰の水色をフォーレル水色標準液と比較して行う。分子のように、波長に比べてはるかに小さい粒子による光の散乱は、レイリー散乱とよばれ、波長の4乗に逆比例するので、水中からは短波長の青色光が多く散乱されることとなり、水は一般に青く見える。水中に懸濁物質が多いと、これらの大きな粒子による散乱は波長に無関係になるため、白色光も散乱されて青色光と混じるので、水色は緑から黄緑へと移行する。したがって水色と透明度とは関係を有する。また湖水の溶存成分やプランクトンの繁殖によって独特な水色を呈することもある。
諏訪湖(すわこ)(長野県)や霞ヶ浦(かすみがうら)(茨城県)では、夏期に水の華が発生するので、水色は黄色を呈する。北海道の泥炭地の沼や、尾瀬ヶ原(群馬・福島・新潟県)の湿原にある池塘(ちとう)などでは、フミン酸などの有機物が溶存しているため淡褐色を呈しているが、これらの湖水の水色の決定にはフォーレルの標準液は適さず、ウーレの水色標準液が用いられる。磐梯(ばんだい)高原にある五色沼(ごしきぬま)(福島県)の水は火山性の地下水の影響を受けて、エメラルドブルーや赤褐色の水色を示すものがある。これらは硫酸カルシウムや酸化鉄が水中に多量に存在するためで、前述の水色標準液での判定は困難である。
[榧根 勇]
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