改訂新版 世界大百科事典 「湯たんぽ」の意味・わかりやすい解説
湯たんぽ (ゆたんぽ)
warming pan
Wärmeflasche[ドイツ]
中に湯を入れ,寝床などに入れて身体を温めるのに用いる道具。〈たんぽ〉の語は〈湯婆〉の唐音から転用されたものといわれる。古くから身近で簡便な方法として広く人々に用いられてきている温罨法(おんあんぽう)の一つである。
湯たんぽは,熱源である湯が容易に手に入るものであることから,だれでもが,どこでも用いることができる,湯がさめるまでの間,徐々に熱を放射して作用するという緩やかな効果があるなどの長所をもつが,温度の調節を随時できないという短所もある。湯たんぽは,直接に局所(身体のある部分)に熱刺激を与えるというよりは,むしろ,寝具と身体の間の空気の温度を高めることによって,間接的に身体を温める目的で用いられてきている。湯による緩慢な加温は身体を温めることで快さをもたらし,その人が本来備えている自律的な体温の維持機能を不必要な加温によって損なわない方法といえる。このような作用のしかたの特徴により,古くから多くの人々がその年齢や身体の状態を問わず,好んで用いてきた。
身体を温めることは,血管を広げ,筋肉をやわらげて痛みを軽減する,関節を動かしやすくする,やすらぎや快さをもたらす,外気温の変化に適応困難な子どもや老人,心身の衰弱の激しい人などの体温を維持することに有効である。しかし,腫張している足首の捻挫のように血管拡張によって痛みが増す場合や化膿や,虫垂炎などの炎症が予測される場合は禁忌である。また,熱さや痛みなどの感じがない知覚障害のある人や,小さな子どもや重篤な病気で意識のない人に用いる場合は,とくに湯の温度や使用時間などの調節に配慮し,熱傷の危険を防ぐ必要がある。
使用に際しては,身体にじかに触れないようにタオルや布地などで包んで用いるが,使用中に外れないようなくふうを要する。低温でも局所に長時間当てると熱傷を生じる場合があるので,その場合は湯の温度を熱めの風呂の湯程度にとどめたり,持続時間を調節したりするなどの注意を要する(持続的な局所的加温としての最高限度は43.3℃との研究報告がある)。一般に湯たんぽに用いられる湯の温度は80℃前後である。湯たんぽを寝床に入れる場合は,寝返りなどの体動による熱傷の事故を防ぐためにも足元から30~50cm程度離すことが望ましい。また,カバーが湿っていると熱伝導が高まり,思わぬ熱傷に至る場合もあるので,使用に当たっては栓の開閉の確認はもちろんのこと,着衣や寝具などを調整し,発汗しない程度の加温にとどめる。
湯たんぽの素材には金属製(トタン,銅),陶器製,ゴム製,プラスチック製のものなどがあり,それぞれに長所と短所がある。一般的に用いられてきた金属製のものは軽くて破損しにくく,熱に強いという利点があるが,さびやすいことなどの欠点がある。また金属製の特徴でもあるが熱伝導が高いため熱傷を受けやすい。表面の波形の凹凸は熱の吸収,放射をよくするとともに,熱による膨張・収縮に備えるためのものである。陶器製は熱に強い点では金属製と同じで,冷めにくい,さびないなどの利点があるが,他のものに比べて破損しやすいことと重いことが難点である。ゴム製,プラスチック製はその伸縮性と弾力性によって身体によくなじむことから,腰や腹部などの局所を一時的に温めるのに用いやすく,折りたたみが可能なため携帯にも便利である。しかし,耐久性において他のものより劣る。容器の大きさは取扱いの便利さから2l入り程度のものが一般的である。使用後は,水をよく切り,かび,さびなどを防ぐことがたいせつである。
近年,電気パット,電気あんかをはじめ,温めたり冷やしたりして繰り返し使える石油系化学物質を素材とした製品や〈使い捨て懐炉〉として市販されている活性成分の製品が普及し,不必要な重量をかけずに局所を加温できることやその簡便さから手軽に用いられている。
→懐炉
執筆者:外口 玉子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報