日本大百科全書(ニッポニカ) 「準安定平衡」の意味・わかりやすい解説
準安定平衡
じゅんあんていへいこう
1気圧のもとで氷は0℃で溶けて水になり、100℃で水は沸騰して水蒸気になるが、水を冷やしていって0℃以下になってもそのまま液状であったり、100℃以上にしても沸騰が始まらないことがある。このように、温度をしだいに変えていって、相転移がおこるべき温度を過ぎても元の相にとどまっているとき、その物質は準安定平衡を保っているとか、準安定状態にあるという。100℃以上の水は過熱、0℃以下の水は過冷却の例である。内部の空気や器壁の影響を十分に除いた液体は過熱や過冷却をおこしやすい。飛行機雲は、過冷却状態の水蒸気が、排気ガスによって液化凝結する現象である。
純粋物質は、たとえば温度と圧力を与えたとき、それに応じた体積をとる。これは、かりに異なる体積をとったと仮定したときに比べて、その体積のときに物質のもつ自由エネルギーという量が最小になるからである、として説明される。もし温度Tをある値に決め、体積としていろいろな値が可能だと仮定して、自由エネルギーをその仮想的な体積の関数で表したとき、その関係が の実線の曲線で与えられたとすると、実現される平衡状態の体積はV1である。温度を下げたときにその関係が破線のように変わるとすると、その途中に二つの極小が同じ高さになる温度Tcがあり、その温度を境として体積は右側の谷底の値から左側のそれへと不連続的に変わるはずである。相変化がおこるのはこのような場合と考えられる。しかし、この変化をゆっくり行わせると、一方の谷底から他方へと飛び移らず、しばらく元の極小の位置にとどまることがある。これが準安定状態である。
[小出昭一郎]