一般的に水あるいは類似の液体成分が気管・気管支を経て肺内に入り、肺胞におけるガス交換(酸素の取り込みと炭酸ガスの排泄(はいせつ))が障害され、各種臓器が酸素欠乏による種々の症状を呈した状態をいう。なお、溺水により死亡した場合を溺死という。通常は水中に全身が沈んだ状態で発生するが、溺水状態、経過から次の4種の発生機序(発生メカニズム)、病態が考えられている。
(1)湿性溺水 液体の肺内侵入によるもので、肺胞内に水が入り肺胞におけるガス交換が停止し、急速に低酸素状態をきたすもの。(2)乾性溺水 吸入した液体の刺激により喉頭(こうとう)部のけいれんが生じ、声門が閉じてしまった結果、肺内に水が入らないのに窒息し、生体の低酸素状態をきたしたもの。(3)二次溺水 水中でおぼれたものを救助し、いったん蘇生(そせい)したもののなかで、ふたたび肺内に炎症性あるいは非炎症性に液体が発生・貯留するもの。すなわち、通常の溺水後、一度は状態がよくなったものが、数日以内でふたたび状態が悪化するものをいう。(4)冷水接触による反射性心停止 冷水が体に接触することにより、副交感神経を介して反射性に心停止をきたすもの。これら4種のうち、溺水の80~90%は湿性溺水、すなわち肺内にまで液体が侵入し、ついには呼吸停止・心停止に至るものであるといわれている。
症状としては、呼吸困難、意識障害、けいれん、チアノーゼ、各種の神経反射低下、ショック、失禁、さらには心呼吸停止状態に陥る場合などがみられる。おぼれてから救出されるまでの時間経過が長いと、呼吸および心の停止が発生しやすい。各種臓器の障害は、低酸素状態に由来するもので、呼吸障害の程度、あるいは心停止の時間により障害の度合いは左右される。一般には無気肺、肺水腫(すいしゅ)、脳障害、血管内溶血、心室細動、腎(じん)不全などの発現が多い。
溺水では心停止に陥ることが多いが、この場合でも、救出現場より心肺蘇生法が開始され、うまく蘇生に成功すれば救命される例もまれにある。これは溺水者の体温が非常に低下している場合に多い。心臓が停止していても、その間の体温が低下していれば、生体は一種の冬眠状態に陥っていることになる。すなわち、脳やその他の各種臓器の細胞が保護されていることにより蘇生に成功することがあると考えられている。また溺水が発生する要因として、泳げない者が水中に転落した場合、飛び込みによる頸髄(けいずい)損傷が合併する場合、酒に酔っていたり、疲労していたり、体が冷えているのに泳いだ場合、泳いでいる最中のけいれん発作、さらには入水(じゅすい)自殺、被虐待児症候群における場合などがある。
[田伏久之]
溺水とは水中に顔面が没して生じる
溺水は、顔面さえ水中に没していれば、発生します。不慮の事故のほか、自殺を図ったり、殺人を意図した場合も原因として考慮すべきです。
来院時に意識がはっきりしていて、呼吸・血圧が安定している場合でも、
意識障害がある場合には、呼吸管理を中心にした集中治療がなされますが、脳浮腫への対策が必要になることもあります。
手近にある板切れやペットボトル、浮き輪などを用いて、一刻も早く水面に浮き上がらせてください。
人工呼吸は水中で開始してもいいですが、特別な訓練が必要です。心臓マッサージは陸上に引き上げてから行います。気道に誤嚥された水は急速に吸収されるため、気道の水を排除するための腹部圧迫は行いません。
すべての溺水者は、脊髄(せきずい)損傷があるものとして対応すべきです。とくに、プールに飛び込んだ時や高速のモーターボート事故などでは
吉岡 敏治
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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