炭素国境調整措置(読み)たんそこっきょうちょうせいそち(その他表記)Carbon Border Adjustment Mechanism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭素国境調整措置」の意味・わかりやすい解説

炭素国境調整措置
たんそこっきょうちょうせいそち
Carbon Border Adjustment Mechanism
Carbon Border Adjustment Measure(s)

厳しい気候変動対策を実施することで対策コストが大きな負担となっている国が、緩い対策しかとっていない国からの輸入品に対して、税・課徴金などの形で対策コストの差の調整を図る制度英語頭文字をとってCBAMと略称され、炭素国境調整メカニズムとも呼称される。世界全体で気候変動対策が強化され、対策の実施が進む一方で、その対策の厳しさには国や地域によって大きな差も生まれている。

 2050年のカーボンニュートラル達成を目ざすヨーロッパでは、ヨーロッパ委員会が自地域での厳しい対策によって、ヨーロッパの産業、とりわけエネルギー消費の多い製造業などが、相対的に緩い対策を実施するにとどまっている開発途上国などからの製品に対して、対策コストの差の分だけ競争力を失い、不利になることを懸念し、そうした国からの輸入品に税・課徴金などをかける炭素国境調整措置導入に向けた検討を具体化し、2021年7月に制度案を発表した。この措置の目的は、気候変動対策の強度の差による自国・地域産業の不利を補い、公平な競争条件を整えること、対策コストに差があると対策が緩い国に産業が移転し、結果的に温室効果ガス排出が移転してそのまま続く「カーボンリーケージcarbon leakage」(炭素漏出)の発生を防ぐこと、などである。また、税や課徴金の形で得られる収入はヨーロッパの独自財源として利用できる、という利点もある。

 ヨーロッパ委員会は、この措置について、今後も検討を進め、2023~2025年を試行期間と位置づけ、2026年からの本格実施を目ざすとしている。また、試行期間中は、ヨーロッパ域外の国などともこの制度をめぐる意見交換を行い、調整を継続するともしている。

 ただし、この制度の導入にあたっては、さまざまな課題や懸念も存在している。一つには、この制度がWTO(世界貿易機関)のルールと整合するのか、十分な検討が必要になるという問題がある。また、より大きな問題として、この措置が自由貿易を阻害し、世界経済にとって、とりわけ今後の世界の成長の中心となることが期待されている開発途上国の成長にとって、大きな負の影響を及ぼすという懸念もある。さらに、ヨーロッパのような先進国がこの措置を導入することで、気候変動対策をめぐる先進国と開発途上国との間の対立、いわゆる「南北問題」が先鋭化し、気候変動問題をめぐる国際協調を乱すおそれも指摘されている。

[小山 堅 2023年10月18日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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