為替心理説(読み)かわせしんりせつ(英語表記)psychological theory of exchange 英語

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「為替心理説」の意味・わかりやすい解説

為替心理説
かわせしんりせつ
théorie psychologique du change

パリ大学教授 A.アフタリオンが 1920年代に唱えた為替理論。それまでの為替に関する支配的な学説であった国際収支説 (国際貸借説ともいい,為替相場の変動が外国為替手形需給によって生じ,需給は2国相互の債権債務の状態によって決ると考える) と購買力平価説を批判し,為替の需給の根底にある経済外的心理要因を強調した。つまり外国為替取引の主体である自国通貨と外国通貨に対する個人的評価を,その個人が外貨に対してもつ心理的要因にさかのぼって,外貨の需要曲線を導きだそうとした。この場合にそれぞれの取引主体の判断を決定する要素としては,両通貨の一般的な購買力,特定の商品に対する購買力,対外債務の支払能力,為替投機による期待利益,あるいは資本逃避によるリスク回避の度合いなどがあげられ,取引の主体はこれと取引の対象とする通貨の数量を勘案して相場を決定する。かくしてアフタリオンはこのようにして形成される取引主体の心理が為替相場を決定すると説明したのである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「為替心理説」の意味・わかりやすい解説

為替心理説
かわせしんりせつ
psychological theory of exchange 英語
théorie psychologique de change フランス語

外国為替学説の一つ。第一次世界大戦後フランスのアフタリヨンによって唱えられた学説で、当時外国為替相場は資本逃避や投機などの短期資本移動によって不安定な動きを示していたが、そのような現象を説明しようとしたもの。それまでの為替学説の主流は、為替相場の変動要因を貿易収支などの量的要因によって説明しようとする国際貸借説(国際収支説)や、各国の物価水準貨幣の購買力)の動向という質的要因を重視する購買力平価説であった。アフタリヨンは、これらの学説は量・質のいずれかの要因に偏っていると批判し、総合理論の樹立を目ざして、限界効用理論を外国為替の需給決定に援用した。すなわち、為替相場を左右する外国為替の需給は、為替関係者の外国為替に認める効用、つまり心理的な評価に依存するとし、この評価の変化によって為替相場は変動するとした。この学説は、短期的な為替相場の理論としては評価されるが、長期的には物価や国際収支の動向などの客観的要因が心理に影響することが指摘されている。

[土屋六郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「為替心理説」の意味・わかりやすい解説

為替心理説 (かわせしんりせつ)

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世界大百科事典(旧版)内の為替心理説の言及

【為替理論】より

…この資産市場アプローチの立場にたてば,時々刻々入る新しい情報が予想を通して外貨ストック需要を大きく変化させ,為替相場をランダムにかつ大幅に変化させることや,また当然,経常収支は均衡しないことなどの変動相場制の経験則がうまく説明できるのである。フランスの経済学者アフタリヨンAlbert Aftalion(1874‐1934)の為替心理説は,為替相場の変動要因として取引当事者の心理状態,とくに予想を重視しているが,この考えは上記の資産市場アプローチに包摂されているとみることができる。
[購買力平価説]
 以上の二つが自己完結的な為替相場理論である。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」