改訂新版 世界大百科事典 「限界効用理論」の意味・わかりやすい解説
限界効用理論 (げんかいこうようりろん)
さまざまな財を消費ないし保有することから得られる効用を考え,ある財をもう1単位だけよけいに消費ないし保有することにより可能になる効用の増加を〈限界効用marginal utility〉と呼ぶ。一定の所得をさまざまな財の購入にどのように支出すればよいかを考えよう。たとえば,米への支出をもう1000円だけ増やした場合の効用の増加がコーヒーへの支出を1000円だけ減少させたときの効用の減少より大きければ,コーヒーへの支出を減らして米への支出を増加すべきである。したがって,それぞれの財の限界効用をその財の価格で割った値がすべての財について等しくなっていなければならない。これを加重された限界効用均等の法則ないしゴッセンの第2法則と呼ぶ。この法則から,いろいろな財の価格と所得とがわかっているとき,消費者のいろいろな財の需要を説明することができる。
ところで,効用とは計ることができるものであろうか。重さや長さ,あるいは温度のように計ることができるという考え方を基数効用論といい,そうではないが,物の硬さや地震の強さのような意味では計れる,つまり効用の大小の比較だけはできるという立場を序数効用論という。後者の立場では,同じ効用の大小関係を表現する効用の尺度は無限にあり,したがって限界効用の大きさは確定しないがその比率は確定する。加重された限界効用均等の法則は,限界効用の比率が価格の比率に一致するということであるから,基数効用ではなく序数効用で消費者の財の需要は説明できることになる。しかし,人々が保険料を払っても損害保険に加入することを説明するためには,資産が増加するとその限界効用が低下すると考えなければならないから,不確実性を考慮に入れた議論のためには基数効用の考え方が必要になる。1870年代にW.S.ジェボンズ,C.メンガー,L.ワルラスによって樹立された理論である。
→限界革命 →効用
執筆者:根岸 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報