外国為替レート(為替相場)の時間的な差を利用して,危険を積極的に負担しつつ,為替売買を通じて金銭的な利益をあげようとする行為。将来のドル高(円安)を予想して現在のうちにドルを購入(円を売却)しておくというのが最も単純な形のドル買い(円売り)投機である。もし予想どおりドルが高騰すれば,その時点で手持ちのドルを(円に対して)売却して投機利益を獲得することができる。
為替投機は為替レートの時間的変動を見越して利益をあげようとする行為だから,為替相場が固定されている固定為替相場制のもとでは多くの場合為替投機は不活発である。ただし,固定制のもとでも為替レートの変更が予見されている場合には,大規模な為替投機が発生する。この場合の投機の形態としては,上に述べたもののほか,ドル・レートの高騰(円レートの下落)を見越してドル建債務の弁済を早め(leads)たり,ドル建債権の回収を遅らせ(lags)たりすることによるものがある。これをリーズ・アンド・ラッグズという。
変動為替相場制のもとでは,為替投機はきわめて活発に行われる。とくに,海外との資本取引が自由な場合には,外国の証券,株式,社債等の金融資産を売買することにより為替投機が行われる。また,為替レートの高騰が予想される通貨の購入価格を先物為替市場での取引によりあらかじめ確定(為替予約)しておき,後日引渡しを受けた当該通貨を即座に売却して,予約の際に確定しておいた購入価格と実際の売却価格との差から投機収益をあげる(先物投機)ことも行われる。さらに,貿易業者がたとえばドル建てで将来受け取るはずの輸出代金について,為替予約を用いればその円換算額を現在のうちに確定しうるにもかかわらずそれを行わず,後日ドルの支払いを受けた時点で代金を円に対して売却して収益をあげようとする行為も純然たる為替投機の要素を含んでいるものと考えられる。日本の場合,上述の先物投機の形態をとる為替投機については為替管理上の制約が強いのでそれほど行われていないが,他の形態をとるものについては制約はほとんどなく,現実にも広範に行われているものとみられる。
1960年代の半ばごろから,国際資本取引の活発化や国際金融市場の発達が各国で顕著にみられ,それに伴って投機的な動機に基づく為替取引が盛んに行われるようになってきた。71年まで続いた固定相場制(旧IMF体制)の末期にはしばしば為替投機に基づく巨額の国際資本移動が発生し,これが固定相場制度の崩壊の一因となったともいわれている。
為替投機の功罪についてはさまざまな見方が錯綜している。為替レートが安定的に推移することを是とする実務家や通貨当局者の多くは,為替投機をもって為替レートの不安定性の大きな原因とし,国際貿易や国際金融取引の順調な発達を阻害する一要因とする。有名な“チューリヒの小鬼たちThe Gnomes of Zürich”という言葉の背後にはこのような考え方があり,顧客保護のため徹底した秘密口座制度をもつスイスの諸銀行を舞台として,“小鬼たち”(Gnomeとは地中の宝を守るとされる小地神のこと),つまり投機筋が暗躍していることを非難した表現である。
一方,経済学者の多くは上の見方に反対し,投機の積極的意義を認める。これは,投機の一般的機能が異時点間の価格の相違から利益を得る行為であることに着目するからである。投機家は低価格時に買い高価格時に売ろうとする。したがって彼らは低価格時(高価格時)には価格を引き上げる(引き下げる)ように行動していることになり,時間を通じた価格の安定化や異時点間の資源の効率的配分に寄与していると考えられるのである。そして,上のように行動せず,したがって価格の安定化に寄与しない投機家は平均的にみれば高価格時に購入し低価格時に売却している(つまり損失を被る)はずで,やがては投機活動をやめざるをえなくなると考えるのである。
→為替相場
執筆者:武藤 恭彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
外国為替相場の変動を見越し、その変動を利用して利鞘(りざや)を稼ぐ目的で行われる為替売買をいう。この種の取引を行うのが投機筋である。為替投機は現物為替の売買によっても可能であるが、それには資金が必要となるので、多くの場合先物(さきもの)為替が利用される。たとえば、近い将来にドル相場の上昇が予想される場合、ドル為替を先物で買っておき、その後現実にこの予想が実現した際にこの買い予約を実行すると同時にそれを売れば、資金をまったく用いないで差益を得ることができる。
為替投機は、投機筋によるほか貿易業者などの実需筋によっても行われる。たとえば、ドル相場の上昇が見込まれると、ドルの支払いを早め、ドルの受取りを遅らせようとする動きがおこる。ドル相場の下落が予想される際には逆の動きがおこる。これをリーズ・アンド・ラグズという。
このような為替投機は、1960年代になって、先進諸国における貿易・為替の自由化が推し進められたこと、また、アメリカの国際収支がベトナム戦争の影響などのためしだいに悪化して基軸通貨としてのドルの信認が失われてきたこと、などによって急速に増えてきた。70年代の変動為替相場制移行後は、為替投機に利用できる資金はユーロ・ダラーやオイル・マネーなどによって増大し、為替相場はしばしば乱高下を繰り返しており、それをいかに抑制するかが世界的な課題となっている。
[土屋六郎]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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