改訂新版 世界大百科事典 「訪問販売等に関する法律」の意味・わかりやすい解説
訪問販売等に関する法律 (ほうもんはんばいとうにかんするほうりつ)
訪問販売,通信販売,電話勧誘販売,および連鎖販売について規整する法律。略称,訪問販売法。1976年公布。小売業のもっとも普通の形態は,販売業者が店舗をかまえ,来店した消費者に販売する〈店舗販売〉である。これに対し,近時,店舗を使用しない訪問販売や通信販売・電話勧誘販売が大規模に行われ,広く普及するようになり,さらに連鎖販売,いわゆるマルチ商法も出現して消費者との間でトラブルを生ずるようになった。これらの販売形態を総称して〈無店舗販売〉とか〈特殊販売〉というが,訪問販売・通信販売・電話勧誘販売とマルチ商法とでは,その性格はまったく異なる。訪問販売は,消費者が店舗まで出かける手数を省き,対面方式により懇切な説明を受けるなどの長所がある。ただ,業者の中には,強引すぎる押しつけ販売や無責任で過剰な説得等を行う者がおり,無店舗のため責任の追及が困難になるという弊害を持つ。通信販売も,店まで行ってショッピングする時間を節約しながら入手しにくい商品を購入できるという長所があるが,虚偽,誇大な広告が行われたり,広告中の説明が不十分であったり,商品の不着や遅延等があると,消費者問題を引き起こす。電話勧誘販売も手軽で迅速な取引が可能という長所がある反面,訪問販売・通信販売同様の短所や相手が誰であるかわかりにくいという問題がある。そこで,これらの販売方法は,その長所を残しながら短所を是正する必要がある。これに対し,マルチ商法はねずみ講的な性格が強く,方法自体が正常でないばかりか,不実で誇大な表示による加盟の勧誘,商品の劣悪さ,価格をはじめとする取引条件のあいまいさなどがつきまとうことが多く,ほとんど弊害のみしかもっていない。マルチ商法は1972年ごろから日本に輸入されたが,翌年にははやくも加盟者と本部との間でトラブルを起こし,放置しえぬ状況を出現させた。74年,通商産業省の産業構造審議会流通部会は,特殊販売の適正化を図るべき旨の答申を行い,これを受けて,76年に成立したのが本法である。その後,本法は数度の改正を経て,96年には電話勧誘販売の新設,連鎖販売の禁止行為の対象者の拡大等の改正がなされた。この法律の施行により,業界の正常化は格段に進んだものの,今なお問題はつきていない。
訪問販売については業者に氏名等の明示や契約内容についての書面の交付等を義務づけており,また消費者は契約を締結したり申し込んだりした場合でも,それが営業所等以外で行われたり,キャッチセールスによるものであるかぎり,8日の間は損害賠償や違約金の支払なしでこれを解消できる(クーリング・オフ。8日の期間は上記の書面を受領し,クーリング・オフ制度が存在することを告げられた日から起算する)ことなども定められている。また通信販売については広告の規制等を規定している。電話勧誘販売でも訪問販売と同様な定めや勧誘拒絶者への勧誘禁止義務等を規定している。これら訪問販売・通信販売・電話勧誘販売の規定は政令で定める指定商品等の取引について適用される。さらに連鎖販売については,勧誘や広告について規制したり,クーリング・オフを定めるほか,立入り検査の制度を設けている。なお,消費者が販売業者から契約をしていないのにいきなり商品を送りつけられた場合,14日または商品引取りを業者に請求した日から7日のいずれか短い方の期間をすぎても商品引取りがないときは返品する必要がないことも定めている(ネガティブ・オプション)。
執筆者:川越 憲治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報