物理検層(読み)ぶつりけんそう(その他表記)geophysical logging

改訂新版 世界大百科事典 「物理検層」の意味・わかりやすい解説

物理検層 (ぶつりけんそう)
geophysical logging

坑井中に各種の物理計測器を降ろして地下の岩石鉱床の性質,あるいは坑井の状態などを調べる技術の総称。石油を含む油層を調べるための物理検層は,とくに重要で,物理検層は石油鉱業とともに育ったといえる。物理検層の技術は1927年にさかのぼり,フランスのシュランベルジェ兄弟Conrad Schlumberger,Marcel Schlumbergerはひと組の電極対で坑井中の地層比抵抗,自然電位垂直分布を測定した。その後これらは電気検層,SP検層と呼ばれるようになったが,原理的にはそれぞれ物理探査の一つである比抵抗法,自然電位法に相当する。得られる比抵抗曲線と自然電位曲線は,坑井近傍の地質および物理的性質,例えば孔隙(こうげき)率,水飽和率などを直接あるいは間接的に示している。また隣り合った坑井の電気検層曲線を比較し,曲線の似たパターンを結び,広い範囲の地下構造の推定もできる。近年,電気検層以外の多くの種類が実用化されており,いっそう正確な地下の状態がわかるようになっている。このような利用は検層曲線の定性的解析法といい,初期にはもっぱらこれが主体であった。しかし,1940年代に入ると地層の電気伝導メカニズムが理論的に明らかにされ,油層の定量評価ができるようになった。すなわち,石油の代表的な貯留岩である砂岩では,石英を主体とする造岩鉱物および孔隙中の油・ガスは電気の絶縁体であるから,地層の導電性は孔隙中の地層水に支配される。したがって地層比抵抗値から,地層孔隙中の水と油・ガスの存在比率を推定することができる。また孔隙率については,他の検層技術により求まるので,結局油層中の油・ガス量が評価できる。なお地層水の比抵抗値は,SP検層の結果から求めることができる。

 物理検層技術は,その後のエレクトロニクス技術の発達とともに急速に開発が進んだ。さまざまな原理に基づく高性能の物理検層法が実用化され,電気検層についても電極の配置がいろいろとくふうされたが,電磁現象を利用し電極を用いないタイプも現れ,それぞれ目的に応じて使い分けられている。一方,地層の電気的性質以外の各種岩石物性も測定されるようになった。その代表的なものを次にあげる。

(1)音波検層 地層中の弾性波伝播(でんぱ)速度を測定する。原理的には,坑井中のゾンデの超音波発振子から20kHz程度の超音波を発射し,2個の受振子間の伝播時間を計る。ゾンデを連続的に移動し,坑井近くの地層の弾性波速度値を,電気検層と同様連続曲線で表示する。地層の弾性波速度はそれ自体地層の重要な物性であるが,これから地層の孔隙率を推定することもできる。

(2)密度検層 放射線源からのγ線の散乱が地層の電子密度に比例する現象(コンプトン散乱)を利用して岩石の密度を調べる。密度検層の結果も,音波検層と同様地層の孔隙率を知るのに役だつ。

(3)中性子検層 高速中性子源からの中性子が等質量の水素原子核で最も減速される現象を利用し,地層の孔隙率を求める。水素原子のほとんどすべては地層孔隙中の液相(地層水および油)に含まれるので孔隙率を間接的に知ることができる。

 これらの検層は,いずれも坑井の掘削作業を一時中止してゾンデを降ろすので作井コストを増加させる。このため,坑井掘削中に検層を行う,掘削時同時測定measurement while drilling(略称MWD)の方法も開発されている。情報伝達の方法として掘削泥水中の圧力波などが用いられ,傾斜掘り中の坑井傾斜角,傾斜方位などが掘削中に測定できる。一方,得られるデータの解析法も進歩し,定量的な解析法がいろいろくふうされている。その原理的なものは,あらかじめいろいろな解析図表を作成しておき,測定データを当てはめて油層評価をする解析法で,簡便かつ実用的である。また最近の進んだコンピューター利用技術も積極的に使用され,検層データは紙の記録から電子計算機に直接入力可能なディジタルテープの記録に変わってきた。このようなコンピューター化は1960年代からの動きであり,例えばそれまでの解析チャートを用いる手計算から,小型コンピューターシステムを作井現場へもちこみ,必要な解析処理結果がすぐみられる方式も用いられるようになった。単に手計算のスピードアップ化をするのではなく,より高度な解析を行うためのソフトウェア技術も開発され,炭化水素(油・ガス)の存在そのものを知る検層解析法も出現した。この種の技術は今後いっそう進歩するとみられているが,まだ解決すべき問題も多く,条件によっては孔隙率などの基本的物性の推定にも大きな誤差が生ずることがある。この誤差を小さくするには,音波検層,密度検層,中性子検層などの各検層を有効利用しなければならないが,このため複雑な数学的手法が必要である。このようないくつかの検層結果を同時に満たす油層パラメーターを算出する検層解析システムをCPIcomputer processed interpretationの略)と呼んでいる。一方,検層データの定性的解釈の方法として検層曲線のさまざまな特徴から堆積環境を推論することも盛んで,石油・ガスの層位封塞(ふうそく)トラップの探査などに広く活用。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物理検層」の意味・わかりやすい解説

物理検層
ぶつりけんそう
geophysical logging
well logging

試錐(しすい)孔(ボーリング孔、ボアホールともいう)や坑井において、物理的あるいは化学的現象を利用して測定を行い、得られたデータに解析を加えて坑井周辺およびその近傍の地層・地質状況あるいは物性値を解明する探査法。用いる現象としては物理探査で用いられる物理現象を含み、それ以外に化学現象も用いられる。試錐孔や坑井を用いる物理検層は地表で行う物理探査に比べて測定精度が高く、エレクトロニクス分野の技術革新に支えられ、各種の検層種目が考察されている。そのおもなものを種目別に以下にあげる。

(1)電気種目
自然電位(SP)検層、比抵抗検層、誘電率検層
(2)放射能種目
γ(ガンマ)線検層、密度検層、中性子検層、核磁気共鳴検層
(3)音波種目
速度(P波、S波)検層、指向性超音波を発信し坑壁面の画像を記録するボアホール・テレビュア、セメントとケーシングの膠着(こうちゃく)状態を調べるセメントボンド検層
(4)そのほかの種目
地層走向傾斜検層、ボーリング孔の孔径を計測するキャリパ検層、温度・圧力・流量検層、坑壁面の光学的画像を記録するボアホール・テレビ
 測定は試錐孔や坑井に挿入された検層ケーブルをウィンチで深度方向に連続的に操作して行い、測定結果は検層記録装置によって記録する。石油・天然ガスの探査においては、検層データをもとに地層や貯留岩層の物性、たとえば孔隙(こうげき)率、油・ガス飽和率、浸透率を求めて、埋蔵量および生産性の評価に供する。そのほかに坑井間の地層対比、岩盤の力学的性質の評価、堆積(たいせき)モデルの推定など、その応用範囲はきわめて多岐にわたっている。

[芦田 讓]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物理検層」の意味・わかりやすい解説

物理検層
ぶつりけんそう
geophysical prospecting

物理探査の一種。試錐によって岩石試料を採取することなく,掘削 (くっさく) された坑井内において,ある種の物理量を深度に対応して連続的に測定し,地層,坑井内の状態を調査する方法。石油坑井の調査のために発達したもので,油層,ガス層の検出には,直接コアを採取するよりもこの方法によるほうが有効である。

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