特徴的給付の理論(読み)とくちょうてききゅうふのりろん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「特徴的給付の理論」の意味・わかりやすい解説

特徴的給付の理論
とくちょうてききゅうふのりろん

契約について当事者準拠法を指定していない場合、その契約に特徴的な給付characteristic performanceを行う当事者の常居所地法を準拠法とするという、国際私法における契約の準拠法の決定についての考え方。契約において、対価として金銭を支払う側の当事者は単純な義務を負っているだけであるのに対し、その反対給付としてその契約を特徴づける給付義務を負っている側の当事者はさまざまな活動を求められることから、この後者の当事者の常居所地がその契約にもっとも密接な関係がある地(最密接関係地)であることが多く、その法を適用することがふさわしい解決となると考えられることが、その根拠となっている。特徴的給付を行う当事者とは、たとえば、物品売買契約においては売主、サービス供給契約においてはサービス供給者などである。この理論はヨーロッパにおいて提唱され、ヨーロッパ共同体(EC)の「契約債務の準拠法に関する条約(1980)」第4条2項において採用され、ヨーロッパ連合EU)の「契約債務の準拠法に関する規則(2008)」(ローマⅠ規則と称される)第4条2項に受け継がれている。また、「ハーグ物品売買準拠法条約(1986)」第8条、「スイス国際私法(1987)」第117条以下などでも採用されている。

 日本でも「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)第8条2項において採用されている。すなわち、同法は、契約などの法律行為について、当事者による準拠法の選択があればその法によるとしたうえで(同法7条)、その選択がないときは、最密接関係地法によると定め(同法8条1項)、第8条2項は「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(中略)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と規定している。なお、第8条2項によれば、「その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する2以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法」を最密接関係地法と推定するとされている。特徴的給付の理論に基づいて導かれる法を最密接関係地法と「みなす」のではなく、最密接関係地法と「推定する」という規定になっているのは、契約は多種多様であり、また、複数の契約が混合した契約もあること、さらに、その他の関係する事情もさまざまに異なることから、推定が覆される場合があることを認めているためである。なお、すべての契約について特徴的給付の理論が妥当するわけではなく、交換契約のように両当事者が同じ類型の給付義務を負っているものには適用することができない。また、第8条3項は、不動産目的物とする法律行為を特徴的給付の理論の適用外とし、その不動産所在地を第8条1項の最密接関係地法と推定している。

[道垣内正人 2022年4月19日]

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