獣が,行動圏内の日常的な移動に一定の経路をたどることから成立する通路。一般には,やぶの中を切り開いてつくられるノウサギの道のように,一見してそれとわかる一定の特徴をもつ。大規模なものでは,丘陵地の等高線に沿ってつくられる自動車道と見まがうようなアフリカゾウの道,毎年季節的な移動経路として多数の個体によって使われるため,岩がすり減ってくぼみをつくるトナカイの道などがあり,特殊なものとしては,水場と水場を峠を越えてつなぐカワウソの道,モグラのトンネル・システムなどがある。
獣は,一定の行動圏をもって一定の土地で定住生活を送っているが,必ずしも日常的な生活の中で行動圏内のあらゆる場所を利用しているわけではなく,一定の決まったポイントを重点的に使用する。獣道は,行動圏内の重要な生活の場であるそれらのポイント(採食場,排泄場,隠れ場,巣,貯蔵場,テリトリー標識,ぬた場,集会場など)をつなぐ機能を果たしている。ただし,どのような場所にも明確に認められるわけではなく,一般的には開けた場所よりも,やぶなどの障害になるものの多い場所に獣道は明確につくられる。これは障害になるものを獣がきらい,一定の移動しやすい経路をしだいに限定するようになることの結果であると思われ,したがって,大型獣よりも小型獣のほうが,また砂漠や草原などにすむ種よりもやぶや森林などにすむ種のほうが,目だった獣道をつくる傾向がある。
獣道は,また,単なる通路である以上に動物の個体間の情報交換の場として重要な機能を果たしているものと推測される。例えば,多くの種は自身の獣道を特別なにおいによって標識するための特殊な腺を発達させている(ヤチネズミ,スミスネズミなどの体側腺,有蹄類の蹄間腺,モグラ類の腹部の腺など)。これらの腺から分泌されるにおいを獣道に標識することによって,動物がどのような情報を伝達しあっているのかについては不明な点が多い。
執筆者:今泉 吉晴
西日本から中部山地まではウジ,またはウツと呼び,東日本では主としてト,またはトアドというのが一般的である。そのほかノウテ(十津川),カケリ(祖谷山),トウリ(伊豆西部)など,土地ごとの名がある。同じ獣道も動物の種類によって経路は異なり,鹿には鹿独自のウジがあって,他地からやってきた鹿も同じ経路を通過する。このため経験ある狩人はウジに待機して獲物のくるのをねらって射撃する。奈良県吉野郡などではこれをウチマチという。この経路をみて足跡の新旧を見定める役をトギリといって狩りの功者の仕事として多く報酬を配分する土地もある。古くはウジに仕掛弓やわなをかけて獣をとることも盛んであったが,危険を伴うため禁じられた。京都府の宇治や静岡県の宇津谷峠,栃木県宇都宮などの地名もこの呼称と関係すると考えられる。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
野生獣の休息地と採食地などの間にできた通路をいう。野生の獣類では、休息場や隠れ場と採食地との間など、その行動圏内の通路が定まっていて、同じコースを移動することが多い。森林中や草原ではこの通路がかき分けられ、地面が踏み固められているし、ドブネズミやクマネズミでは足跡で汚れている。これらはいずれも獣道とよばれ、猟師、とくにわな猟師はこの通路を読み取って猟場を定めるし、ネズミの駆除でもこの通路に毒餌(どくじ)を置くのが効果的である。狩猟用語や古語では、ウジ、ウツ、ワリ、カヨイなどともよばれる。イノシシやシカのよく使う通路には、ハイカーが登山路と間違って入り込み、迷うことがある。こういう道はシシ道、シカ道ともいわれる。
[朝日 稔]
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