奈良県教育委員会事務局文化財保存課編 十津川村役場 昭和三六年刊
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
奈良県南部、吉野郡の村。村では日本最大の面積(672.38平方キロメートル、北方領土を除く)をもつ。紀伊山地中央部を嵌入蛇行(かんにゅうだこう)する十津川(とつがわ)の流域で、沿岸の緩斜面上に畑地と集落が点在する。村域のほとんどが山林で、林業を主産業とし、シイタケ、イエシメジ、ワサビ、薬草の栽培やアメノウオ(アマゴ)の淡水養殖なども行われる。吉野熊野総合開発事業により風屋(かぜや)、二津野(ふたつの)の2ダムがつくられ、国道168号の開通などもあって、かつての秘境も近代化された。国道169号、425号も通じている。1978年(昭和53)には旭(あさひ)ダムの揚水式奥吉野発電所が始動した。十津川に架かる谷瀬(たにせ)の吊橋(つりばし)、原始的な乗り物「野猿(やえん)」、上湯(かみゆ)、湯泉地(とうせんじ)、十津川の各温泉、玉置山(たまきやま)山頂の眺望と付近の玉置神社など観光資源に恵まれ、観光地化が進んでいる。神武(じんむ)東征にまつわる伝説や南北朝時代の南朝遺跡も多く、幕末の天誅(てんちゅう)組の変に参加した十津川郷士(ごうし)の活躍も有名。武蔵(むさし)、小原(おはら)、長井地区に伝わる風流踊(ふりゅうおどり)の一種「十津川の大踊」は国指定重要無形民俗文化財・ユネスコ(国連教育科学文化機関)無形文化遺産。また、2004年(平成16)に大峰奥駈道(おおみねおくがけみち)や熊野小辺路(こへち)が「紀伊山地の霊場と参詣(さんけい)道」として世界遺産(文化遺産)に登録されている。なお、1889年(明治22)十津川が氾濫(はんらん)して大被害をもたらし、当時の村民の約半数、600戸、約2500人が北海道に移住し新十津川村(現、空知(そらち)総合振興局管内の新十津川町)を開いた。中心地区の小原には歴史民俗資料館がある。人口3061(2020)。
[菊地一郎]
『酒田正俊著『十津川郷』(1954・十津川村史編輯所)』
奈良県南部を流れる川。上流は大峰(おおみね)山脈の山上(さんじょう)ヶ岳付近に源を発する天ノ川(てんのかわ)で、西流して五條(ごじょう)市大塔(おおとう)町地区に入って流路を南に転じ、猿谷(さるたに)ダムを経て同町辻堂(つじどう)で十津川となる。大峰山脈と伯母子(おばこ)山地との間を嵌入蛇行(かんにゅうだこう)してV字谷をつくり、舟(ふな)ノ川、川原樋(かわらひ)川、旭(あさひ)川、神納(かんの)川などをあわせ、十津川(とつかわ)村を南流して和歌山県に入り熊野川となり、新宮(しんぐう)市で熊野灘(なだ)に注ぐ。延長約114キロメートル。沿岸の所々に緩傾斜地が開け、畑地と集落が点在する。第二次世界大戦後、電源開発事業によって猿谷、風屋(かざや)、二津野(ふたつの)の3ダムがつくられた。川沿いに通ずる西熊野街道は、五條市と新宮市を結ぶ国道168号となった。
[菊地一郎]
奈良県吉野郡の村。奈良県の最南端に位置し,面積は672.4km2で県下の市町村中最大。人口4107(2010)。東の大峰山脈,西の伯母子(おばこ)山脈にはさまれ,ほぼ中央を十津川が深い渓谷をなして南流,平地に乏しい。一帯は古くから天皇家とかかわりが深く,南北朝期には吉野朝の軍事・経済上の後背基地の一部であった。住民は急峻な斜面に焼畑をつくり,ヒエ,アワ,サトイモ,ダイコンなどを栽培して自給生活をいとなみ,かたわら狩りや山仕事に従ってきた。近世には幕府直轄地として五条代官所の管下にあり,年貢を免除される代りに材木運上の夫役を務めた。十津川郷士は南朝の遺臣と伝え,幕末の天誅組の挙兵には多数の郷士がかかわった。1871年(明治4)全戸が士族に列し,また廃仏毀釈により大峰修験の行場であった玉置(たまき)山(別当,高牟婁院)を玉置神社とし,全村の寺を廃している。89年8月,十津川の水害により大被害をうけ,数百戸が北海道に移住,新十津川村(現,空知支庁新十津川町)をつくった。以後,過疎化が進んでいるが,ダム建設などによる開発も進み,十津川沿いの西熊野街道は国道168号線として改修され,奈良・大阪方面や新宮市とも結ばれる。林業を主産業とするが,観光資源にもめぐまれ,村内には南朝ゆかりの遺跡が伝えられる。小原にある十津川宝蔵(ほうぞう)には後村上天皇綸旨(りんじ)をはじめ年貢赦免状や天誅組関係文書など多くの記録や文書が収蔵されている。十津川に臨む武蔵(むさし)に湯泉地(とうせんじ)温泉,平谷には二津野ダムによってできた湖のほとりに十津川温泉がある。
執筆者:高橋 誠一+千葉 徳爾
奈良県南部,紀伊山地の山上ヶ岳(1719m)に源を発し,曲流しつつ五条市の旧大塔(おおとう)村,十津川村をほぼ南流し,和歌山県新宮市と三重県熊野市との境付近で北山川と合流して熊野川となり,熊野灘に注ぐ。長さ約110km。上流部は天(てん)ノ川とも呼ばれる。旧大塔村,十津川村では穿入(せんにゆう)蛇行して深いV字谷を刻んでいるが,両岸の河岸段丘上に狭小な耕地と集落が立地する。1889年8月の大水害によって河床が上昇し,現在では広い河原がみられる。流域はかつて秘境といわれたが,川沿いに国道168号線が通じて五条市と和歌山県新宮市を結び,猿谷,二津野(ふたつの)などのダムが建設されて森林開発と水力電源開発が大規模に進行した。これにともなって水運を利用していた木材輸送も陸送に変わった。十津川村平谷には,二津野ダムによって出現した十津川湖の湖畔に十津川温泉がある。
執筆者:高橋 誠一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新