日本大百科全書(ニッポニカ) 「揚げ物」の意味・わかりやすい解説
揚げ物
あげもの
魚貝類、野菜類などに衣をつけ、またはつけずに、熱した油の中に入れて揚げる調理法。その材料はたくさんの種類がある。普通、魚貝類を植物性の食用油で揚げるものをてんぷら、野菜類を揚げるものを精進揚げといっている。また、動物性の食用油、ラード、ヘット、鯨油、魚油などを用いて揚げたものは、厳密にいうとフライというべきであるが、てんぷらの名を用いていることもある。
揚げ物は一般に衣をつけて揚げるものが多い。「新引(しんびき)揚げ」は米の粉を用いる。「吉野揚げ」は、材料に塩をし、かたくり粉をまぶし、次に卵白にかたくり粉少々を加えたものをつけて揚げる。「から揚げ」は、材料にたっぷり小麦粉をつけて、材料の味を逃がさないようにして揚げる。「から」とは「唐(から)」で中国風の意である。「空揚げ」と代用文字を用いることもあり、衣なしのものの意に誤用されることがあるが、衣をつけないで揚げるのを正しくは「素(す)揚げ」という。「金ぷら」は、椿油(つばきあぶら)を用い、衣にそば粉少々を加えるものをいうが、明治中ごろから、衣に卵黄を多く入れたものの意とし、また卵白を用いたものを「銀揚げ」と称してもいる。「磯辺(いそべ)揚げ」は、衣にのりを加えたものをいう。「みどり揚げ」は、ホウレンソウまたは菊菜(シュンギク)をゆでて、裏漉(うらご)しにかけたものを衣に加えたものをいう。「泡雪揚げ」は、卵白1個を泡立て、その中にかたくり粉大さじ3杯を入れ、混ぜ合わせたものを衣にして揚げる。「竜田(たつた)揚げ」は、砂糖、しょうゆを適量混ぜた中に、鶏肉などの材料を10分ほど浸してから、かたくり粉をつけて揚げたものをいう。「うに揚げ」は、ウニと卵黄、かたくり粉少々でつくった衣をつけて揚げたもので、中火で揚げるのが「こつ」である。このほか洋風、中華風の揚げ物、その和風に変化したものなど種類が多い。
揚げ物を上手に揚げるには、揚げ油を適当な温度に保つことがたいせつで、これには底のかなり厚い鉄鍋(なべ)を選ぶことが必要である。揚げ油はたっぷり用い、しかも一度に入れる材料の量は、鍋の表面積の3分の1程度を限度とするのが原則である。揚げ油には、ごま油、かや油、椿油、大豆油、菜種油、落花生油、綿実油(めんじつゆ)、米油などの植物油があり、そのほかヘット(牛脂、タローともいう)、ラード(豚脂)などがある。
揚げ物は、油の温度を一定にし、170~180℃で揚げるのを原則とするが、材料によっては低い温度で揚げることもある。油の温度は、温度計を用いなくても、だいたい見当がつく。油が沸きかかったときに、衣を箸(はし)の先に少々つけて落としてみる。それが底に沈んで浮き上がらないのはだいたい150℃以下、底に沈み浮き上がってくるのは160℃ぐらい、衣が中ほどまで沈んですぐ浮き上がってくるのは170℃ぐらいである。衣が表面で散るのは180℃以上で、揚げ物に適さない。中国の鯉(こい)料理のように、骨まで柔らかに揚げるには、揚げ油も材料も一度冷やしてから二度揚げする方法がよい。
[多田鉄之助]