フナクイムシ(英語表記)Teredo navalis japonica

改訂新版 世界大百科事典 「フナクイムシ」の意味・わかりやすい解説

フナクイムシ (船喰虫)
Teredo navalis japonica

海中木材,すなわち桟橋,杭,養殖筏,貯木,木造船などに穿孔(せんこう)してその中にすみ害を与えるフナクイムシ科の二。フナクイムシは細長く30cmくらいにもなる軟らかい虫状で,その前端(穿孔した穴の奥のほう)に白い小さい殻が左右1対あって殻を合わせると球状になる。後端(穴の入口のほう)は細くなって,出入水管があるが,これを囲むように左右に対をなして石灰質の矢羽状の尾栓がある。殻は長さ,高さ,膨らみともに7.5mmくらいになる。前部は三角形の殻頭でその上にはやすり状になったすじがある。中央部は殻体でもっとも大きく,殻体前部はやはりやすり状になっていて,殻頭と殻体前部を穿孔する木に押しあてて動かし木を削る。後部は殻翼で後方でそりかえるが,この内側に筋肉が付着する。足は円く太く殻の前部の殻頭の下の広く開いている部分から出して穴の奥におしあてて殻を動かすのをささえる。

 穴は入口は狭いが穿孔するに従って大きくなり,奥ほど太くなる。掘り進んだ穴の内壁石灰で裏打ちされて石灰管になる。穴の入口から出入水管を出して呼吸し,餌をとる。水管を穴に引き込むと,反対に尾栓が出て穴の入口をふさぐ。削った木片食用にするが,セルロースを消化する酵素がある。雌雄異体であるが,性転換もする。卵生で幼生は成長してベリジャー幼生になるが,これは木質から浸出する液にひかれて木の表面に泳ぎつき穿孔を始める。サハリンから九州,またシベリアから中国まで大陸沿岸に広く分布し,内湾など多少塩分の低い海域に多い。

 フナクイムシ科Teredinidaeは日本から20種が記録されている。ヤツフナクイムシLyrodus pedicellatusも日本にふつうで,尾栓の先端の半分が黒褐色の皮をかむっている。熱帯海域に広く分布し,東南アジアでは穿孔したこの種を採取して食用にする。またオオフナクイムシBankia bipalmulataは房総以南,熱帯海域に分布する。尾栓がムギの穂状で長い。ネムグリガイZachsia zenkewitschiアマモの根に穿孔する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「フナクイムシ」の意味・わかりやすい解説

フナクイムシ
ふなくいむし / 船食虫
ship worm
[学] Teredo navalis

軟体動物門二枚貝綱フナクイムシ科の二枚貝。日本全土の沿岸に分布し、海中の木材に穿孔(せんこう)してその中にすむ。内湾の多少塩分の低い海域に多い。体は白色で虫状に細長く、前端に小さい2枚の殻があり、左右あわせると球形となる。殻長、殻高、殻幅ともに7.5センチメートルぐらいで、殻は前部、中央部、後部の3部からなる。前部は小さく三角形で、その上にやすり状になった多くの肋(ろく)があり、中央部は殻体で大きく、その前域はやすり状、後部は半月形の翼状部で後背に反る。内面は殻頂の下から棒状の突起が出る。殻の前部にあるやすり状の部分で木材を削って穿孔し、食い進んだ穴の内面を石灰で覆い、石灰質の管を形成する。軟体は30センチメートル以上に成長するが、穴の奥に体の前端があり、削り取った木質を栄養とする。体の後端の穴の入口は小さく、そこから2本の出・入水管を出すが、水管を引き入れるとき、石灰質の団扇(うちわ)形の尾栓で管の入口を閉じる。雌雄異体であるが、性転換もする。卵生で、孵化(ふか)したベリジャー幼生は木質から出る物質に引かれて木の表面に達し、すぐ穿孔する。筏(いかだ)、杭(くい)、木造船、貯木などに穿孔して害を与える。

 なお、フナクイムシの語はこの科を総称することもあるが、各種は、形態的には殻や尾栓の形がわずかに異なるほかは著しい差がない。ヤツフナクイムシLyrodus siamensisは、フナクイムシにもっとも似た普通種で、尾栓は黒褐色の皮をかぶっている。オオフナクイムシBankia bipalmulataは、尾栓がムギの穂形をしている。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フナクイムシ」の意味・わかりやすい解説

フナクイムシ
Teredo navalis japonica; shipworm

軟体動物門二枚貝綱フナクイムシ科。体は白色,体長 30cmほどで細長く,その前端部分に殻長,殻高,殻幅とも 0.75cmほどの殻がある。左右の殻を合せると球形になる。殻は3部から成り,前部 (殻頭) は小さい三角形で,やすり状の彫刻がある。中央部 (殻体) は最も大きく,その前の部分にもやすり状の彫刻がある。後部 (殻翼) は後背方向にそり,体の筋肉が付着している。この殻を動かして海中の木材を穿孔する。体は穿孔した木材内にあり,穿孔口から2本の出・入水管を出す。水管を引込めると左右から石灰質の尾栓が孔をふさぐ。雌雄異体であるが,性転換をする。卵生。ベリジャーは海中に泳ぎ出るが,木質から出る液に吸引されてすぐ木材の表面につき,穿孔を始める。日本全土の内湾の,多少塩分度の低い海域に多い。

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百科事典マイペディア 「フナクイムシ」の意味・わかりやすい解説

フナクイムシ

フナクイムシ科の二枚貝。殻は高さ,長さ,幅とも0.7cmほどで白色,殻の前半部にはやすり目状の肋があり,これを動かして木材を削り穴を掘る。軟体は白色で細長く30cm以上にもなり,セルロースを消化する酵素を分泌。尾栓(びせん)の間から水管を出す。雌雄異体であるが,性転換をする。サハリン〜九州,沿海州,朝鮮半島,中国北部の沿岸に分布し,桟橋,木造船,貯木など海水中の木材に穿孔(せんこう)し,害を与える。ヤツフナクイムシは本種に似るが,尾栓の先端の半分は黒褐色のキチン質の膜でおおわれる。日本全土に普通。

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