同一人の性器に男女両性の要素が存在するものをいう。欧米語はギリシア神話のヘルマフロディトスに発する。俗には〈ふたなり〉とも呼ばれ,高等動物,主として哺乳類にもみられる。男女の性は,普通は受胎と同時に起こる性染色体の組合せによって決定される。男性はXY,女性はXXの性染色体構成をもち,正常な胎児では性腺分化,すなわち男児では睾丸,女児では卵巣が発達する。睾丸からは,男性器のもととなるウォルフ管の発育を促進し,女性器のもととなるミュラー管の発育を抑制する男性ホルモンが分泌される。睾丸がない場合は,卵巣の有無にかかわりなくミュラー管が発達し,ウォルフ管が消退していくので女性化が起こる。このような胎生期における性の分化発達に異常が起こると,半陰陽が発生すると考えられている。性腺の種類によって,真性半陰陽,男性仮性半陰陽および女性仮性半陰陽に大別される。なお〈半陰陽〉の用語については,現在は性分化疾患(DSD)の用語が使用されることが多くなっている。
同一人が睾丸と卵巣を同時に有している場合で,左右がそれぞれ睾丸と卵巣のこともあれば,睾丸の中に卵巣の成分が混在していることもある。性染色体構成は大部分が正常な男性型(XY)または女性型(XX)を示しているが,なぜ睾丸と卵巣の両方が発生してきたかは不明である。睾丸要素の多寡によって,性器の外形は男性に近いものから女性に近いものまでさまざまである。一般には,陰茎は陰核のように小さく,尿道はその先端に開口せず女性のように陰茎の基部に開口している(尿道下裂)。陰囊の発育は悪く,一見大陰唇のようにみえる。性腺は陰囊内になく,鼠径部(そけいぶ)や腹腔内にあることが多い(停留睾丸)。尿道開口部付近に腟が開口し,完全な子宮や卵管を有していることもある。思春期になると,卵巣からの女性ホルモン分泌によって,乳房の発達や性器出血がみられることもある。治療は性器が男性と女性のどちらに近いかによって決められるが,戸籍上の性や心理的・精神的状態をも十分考慮しなければならない。男性にするには,卵巣を摘出し,陰茎や尿道の形成手術および子宮や腟の摘出を行う。女性にする場合は,睾丸を摘出し,陰茎の切断や尿道および腟の形成手術を行う。
→性転換
性腺が睾丸でありながら,卵管や腟などの女性性器が認められ,男性性器の発育不全が起こるもの。これは,睾丸に男性性器を十分に分化発達させる力が欠けていたためと考えられている。性染色体構成は正常な男性型であることが多い。性器の外観は真性半陰陽の場合と同じでさまざまである。外見は女性と変わらず結婚している人もあり,不妊や無月経をきっかけとして発見されることもある。治療の原則は真性半陰陽の場合と同様である。なかには,性染色体が男性であっても,女性として生活させることもある。
正常な卵巣があり,卵管,子宮,腟も正常であるが,母親が妊娠中に男性ホルモンの作用がある合成黄体ホルモンを流産防止などの目的で服用した場合に発生する。また副腎の先天性疾患で,副腎から男性ホルモンが大量に分泌される場合にも起こる。陰核は陰茎様に肥大し,左右の小陰唇が癒着して陰裂が融合している。治療は,肥大した陰核の切除形成と陰裂融合部の切開などを行い,女性とする。
→両性具有
執筆者:上野 精
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
半陰陽とは、性腺と性器の性分化の間に
性腺として
真性半陰陽の原因は不明です。
内性器は子宮と卵管をもつことが多く、とくに卵巣のある側で卵管が発達し、
性機能は卵巣、精巣それぞれから性ホルモンの分泌がみられます。子宮がある場合には月経を認め、まれには造精機能をもつ例もありますが、
女性半陰陽の性腺は卵巣であり、性染色体も女性型(46,XX)ですが、胎児期の過剰な男性ホルモンに
男性半陰陽の性腺は精巣であり、性染色体も男性型(46,XY)ですが、胎児期の男性ホルモン作用の欠如により、内外性器が女性型に分化します。その原因として男性ホルモン受容体の異常によるもの(
半陰陽に対する治療は、本人の心理的適応性と希望を重視して、成長後に養育された性の方向へのホルモン療法や、形成外科的治療を行うことが多くなっています。
百枝 幹雄
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
性の分化発達の過程で生じた単体奇形の一種。性はいくつかの段階を経て分化してくるもので、その最初は、卵と精子が結合した瞬間に決まる性「染色体による性」chromosomal sexあるいは「遺伝的性」genetic sexであり、ついで受精卵が卵分割をおこし、各種の臓器を形成していくが、その一つとして性腺(せん)も形成される。その段階の性が「性腺による性」gonadal sexである。続いて内性器および外性器系が性染色体や性腺と一致した方向に分化して個体の性が完成する。この性が「内性器の性」ductal sexおよび「外性器の性」genital sexである。半陰陽は、このような一連の性の分化発達過程のうち「性腺の性」の段階以降にみられる異常で、次のように分けられる。
(1)真性半陰陽 精巣(睾丸(こうがん))と卵巣の両方の組織を有する場合をいい、精巣と卵巣が別々に存在するものと、一つの性腺内に両方の組織が共存するもの(卵巣精巣ovotestis)とがある。性染色体はXX/46がもっとも多く、ついでXY/46が多い。またXY/XXのモザイクも認められるが少ない。Y染色体が存在しないのに精巣が発生するのはY染色体上に存在する精巣決定因子(TDF)が他の染色体上に転座しているためである。外性器には尿道下裂があり、男女の区別が困難なことが多い。また内性器系では、腟(ちつ)や子宮が存在する。
この真性半陰陽に対して仮性半陰陽があり、男性半陰陽と女性半陰陽に分けられる。
(2)男性半陰陽 性染色体構成XY/46で性腺も両側精巣であるが、内・外性器系が女性型へ偏向しているもので、その典型が精巣性女性化症である。男性半陰陽は、男性化障害とミュラー管退行障害に大別されており、男性化障害はさらにテストステロン生合成異常によるものと、テストステロン発現異常によるものに分類される。
(3)女性半陰陽 性染色体、性腺、内性器は女性型であるが、外性器が男性化を示すもので、その多くは副腎(ふくじん)皮質における先天性酵素欠損による副腎過形成(副腎性器症候群)である。このほか、母体から男性ホルモン様作用を受けておこるものもある。この場合は非進行性である。
(4)混合型性腺形成不全症 性腺が一側は索状性腺で、他側が精巣であり、性染色体構成は基本的にはXO/45とXY/46のモザイクを示す。外性器は男女いずれとも識別しにくいことが多く、内性器では子宮が存在する。この半陰陽の索状性腺あるいは精巣から腫瘍(しゅよう)の発生する率が高い。
半陰陽の治療は、それぞれのタイプによって異なるが、性を決定する場合には、どちらの性でどのくらい養育されてきたか、形成手術の可能性、本人の希望、家族の希望などを十分に考慮して決定しなければならない。
[白井將文]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…植物では雌雄同株という。この雌雄同体現象hermaphroditismは下等な種に例が多くみられ,雌雄異体現象gonochorismより原始的な型だと考えられる。ミミズやマイマイは機能的な卵巣と精巣がほぼ同時に成熟するが,これを常時雌雄同体現象という。…
…これを性転換と呼び,その手術を性転換手術という。本手術は肉体的な性の異常である半陰陽と,精神的な性の異常である性転換願望者(トランスセクシュアルtranssexual)が対象として考えられる。半陰陽には真性半陰陽と仮性半陰陽があるが,前者では睾丸あるいは卵巣を摘出し外陰部を形成する手術を行う。…
…各器官が形成され発育期に入った段階でも,胎児に対する薬物の危険は存在する。たとえば性ホルモン分泌の異常が薬物により母体に起こると,胎児の性腺発達が障害されて半陰陽が現れたりすることがあるが,このような影響は器官形成期を過ぎた時期に薬物が母体と接触した場合に現れる。この時期の影響としては,胎児の外形に必ずしも変化は認められないが,出生後の機能異常として検出される障害の発生をみることがある。…
…このため,大部分の競技は男女別に行われる。ところが,性分化の過程に異常が生じて,男性半陰陽となった人が,女性として競技を行うと,優れた選手となることがある。このような特殊な例を除外するために,スポーツ界では,女子選手に対してフェミニティテストを実施するようになり,オリンピックでは1968年のグルノーブル冬季大会で初めて行われた。…
※「半陰陽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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