異常乳(読み)いじょうにゅう(英語表記)abnormal milk

改訂新版 世界大百科事典 「異常乳」の意味・わかりやすい解説

異常乳 (いじょうにゅう)
abnormal milk

通常の牛乳にくらべて性質が異なっているために,飲用牛乳や乳製品の製造に用いることができない牛乳をいい,次のような種類がある。(1)アルコール陽性乳 原料乳の検査で用いられるアルコール試験で凝固する牛乳である。原因は搾乳後の非衛生的な取扱いにより乳酸菌が増殖して乳酸を生成し,牛乳酸度が上昇してカゼインが不安定になっているためである。アルコール陽性乳は一般に加熱によっても凝固しやすく,加熱処理が必ず行われる牛乳の加工には使用できない。また酸度が正常であるにもかかわらずアルコール試験に陽性を示す牛乳があり,低酸度2等乳,低酸度アルコール不安定乳などとよばれる。この原因としては,牛乳の塩類平衡の異常,とくにカルシウムイオンの増加によるものとされており,飼料の改善によりこのような牛乳の分泌を防ぐことができる。(2)乳房炎乳 臨床性の乳房炎では乳量も激減し,性状も明らかに異なるので牛乳加工に用いられることはない。潜在性の乳房炎では牛乳は外観上は常乳と同じであるが理化学的,細菌学的に種々の異常が現れる。その主なものは,塩素,ナトリウム,非カゼイン窒素,pH,白血球,リンパ球などの細胞数の増加,乳糖,無脂固形物,比重,酸度の減少である。(3)生理的異常乳 初乳および末期乳の性質は常乳と異なり,異常乳の一つとして扱われる。とくに分娩後数日の間に分泌される初乳は濃厚で黄色を帯びている。成分的にはタンパク質,とくに免疫グロブリンの量が多いので,加熱によって凝固しやすい。このため分娩後5日までの初乳は原料乳としての使用は禁止されている。(4)抗生物質汚染乳 乳房炎など牛の病気の治療に用いられたペニシリン,クロロテトラサイクリンなどの抗生物質が牛乳中に移行すると,正常な乳酸発酵を阻害するのでヨーグルトチーズの製造が妨げられる。このような薬剤を服用させまたは注射した時は,その薬剤が牛乳に残留している期間中は原料乳として使用できない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「異常乳」の解説

異常乳

 (1) 初乳や末期乳など,分泌するウシの生理的状態によって分泌される成熟乳でない乳.(2) アルコール不安定乳など,製品検査で異常とされる乳.(3) 生乳の保管が悪く,品質の低下した乳などの総称.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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