乳酸発酵(読み)ニュウサンハッコウ

デジタル大辞泉 「乳酸発酵」の意味・読み・例文・類語

にゅうさん‐はっこう〔‐ハツカウ〕【乳酸発酵】

乳酸菌糖類分解して乳酸を生成する反応

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精選版 日本国語大辞典 「乳酸発酵」の意味・読み・例文・類語

にゅうさん‐はっこう‥ハッカウ【乳酸発酵】

  1. 〘 名詞 〙 糖類を分解して乳酸を生成する発酵。動物組織中では解糖作用として広く認められる。また、酸敗・酵母の育成などには微生物の乳酸菌によって発酵現象が営まれる。ヨーグルトチーズなどの酪農品の製造、野菜類の漬物の製造、清酒・醤油・味噌などの製造に利用される。〔稿本化学語彙(1900)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳酸発酵」の意味・わかりやすい解説

乳酸発酵
にゅうさんはっこう

糖質が微生物の作用を受けて、主として乳酸を生成する現象で、アルコール発酵と並んで生物の主要な発酵形式である。乳酸発酵を営む微生物の代表的なものが乳酸菌である。糖の乳酸への転換は古くから知られ、1857年パスツールはこれが乳酸菌の作用に基づくことを明らかにした。広く動物組織でみられる解糖作用はこれによく似ているが、経路は異なり、生成物はL-乳酸である。乳酸菌によるものでは、菌の種類によってL-乳酸、D-乳酸あるいはDL-乳酸のいずれかが生成される。これらの菌はラセマーゼラセミ化を触媒する酵素、微生物酵素)をもっていることが多い。工業的乳酸生産に利用しうるものとしては、乳酸菌のほかに糸状菌が知られているが、この場合生成されるのはL-乳酸のみである。また、乳酸だけを生成する正常発酵(ホモ乳酸発酵)と、乳酸をおもな生成物とするが同時に他の種々の生成物(エタノール、酢酸、炭酸ガスなど)を相当量生成する混合発酵(ヘテロ乳酸発酵)の型式に分けられる。これらはいずれも、清酒、しょうゆ、みその醸造、種々の漬物、乳酸飲料やチーズの製造などに重要な役割を果たしており、食生活にもっとも密接な関係をもつ発酵といえる。また、家畜の飼料作物や牧草の長期保存にも利用される。

[飯島道子]

『谷村和八郎監修『フローチャートによる生活微生物基礎実験』(1988・地人書館)』『村尾澤夫・荒田基夫編『応用微生物学』改訂版(1993・培風館)』『雪印乳業健康生活研究所編、小崎道雄編著『乳酸発酵の文化譜』(1996・中央法規出版)』『生田哲著『バクテリアのはなし』(1999・日本実業出版社)』『栃倉辰六郎他監修『発酵ハンドブック』(2001・共立出版)』


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改訂新版 世界大百科事典 「乳酸発酵」の意味・わかりやすい解説

乳酸発酵 (にゅうさんはっこう)
lactic fermentation

糖から酸素のない状態で乳酸が生成する発酵現象。主として細菌の1種である乳酸菌によって行われるが,カビの仲間のケカビ類や筋肉をはじめとする動物組織にも同様の発酵を行う性質がある。乳酸発酵はグルコースから乳酸のみが生成するホモ乳酸発酵(Ⅰ)と,乳酸のほかにエチルアルコールと炭酸ガスが同時に生成するヘテロ乳酸発酵(Ⅱ)に大別され,それぞれ次の反応式で表される。

ホモ乳酸発酵は筋肉で見いだされた解糖現象と同じであり,エムデン=マイヤーホーフEmbden-Meyerhof経路によるその代謝は酵母のアルコール発酵とほとんど同一である。ヘテロ乳酸発酵を行う菌ではこの経路の重要な酵素が欠落しており,グルコースは酸化的ペントースリン酸経路によって代謝された後に生成する五炭糖リン酸エステルのC3-C2開裂を受ける。どちらの発酵においても生成する乳酸の立体異性は菌によって異なり,L(+),D(-)または両者のラセミ混合物のいずれかである。

 乳酸菌は糖を強力に乳酸発酵する細菌であり,杆菌(乳酸杆菌Lactobacillus)と球菌(Streptococcusなど)の二つの大きな群よりなる。いずれもグラム染色陽性である程度の耐酸性を有し,酸素のない条件でよく生育する。複雑な栄養要求性のために,乳酸菌の培養には通常,肉エキス酵母エキスなどを培地に添加する必要がある。

 乳酸菌による乳酸発酵は食品の酸敗など害ともなるが,乳を原料とするチーズ,乳酸飲料,乳酒(ケフィア)の製造や乳酸の工業的生産に広く利用されるほか,日本酒,しょうゆ,みそ,漬物などの製造に不可欠の要素である。
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百科事典マイペディア 「乳酸発酵」の意味・わかりやすい解説

乳酸発酵【にゅうさんはっこう】

糖を無酸素的に分解して乳酸を生成する発酵アルコール発酵とともに生物の二主要発酵とされ,筋肉などの動物組織に広く認められる(解糖)。微生物で乳酸発酵を営む代表的なものは乳酸菌で,ヨーグルトやチーズの酪農品,乳酸飲料,乳酸などの製造に利用される。
→関連項目サイレージ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乳酸発酵」の意味・わかりやすい解説

乳酸発酵
にゅうさんはっこう
lactic acid fermentation

糖の無酸素的分解で,終産物として乳酸を生じる発酵。反応経路はアルコール発酵とほとんど同じで,エムデン=マイヤーホフ経路の最終段階に近いところで,炭素 (C) 3個の分子 (ピルビン酸) がそのまま還元されるか (乳酸発酵) ,C2+C1 に分割されてから C2 の部分のみが還元されるか (アルコール発酵) の差である。微生物では乳酸菌がこの発酵を行う。また動物組織では広く認められる反応であって,動物の場合には同じ反応を特に解糖ということがある。この経路が呼吸の経路につながる場合には,ピルビン酸は還元されることなくそのままクレブス回路に流れ込むので,便宜的にはピルビン酸までを解糖,乳酸への還元までを含めたとき乳酸発酵と呼ぶこともできるが,慣用として定着しているほどではない。動物では,たとえば筋肉の急激な運動など,酸素供給が間に合わないときに乳酸発酵によってエネルギー源物質たるアデノシン三リン酸が供給され,生じた乳酸は血流によって肝臓に運ばれて,呼吸によってさらに分解されるか,糖へと再合成されるかする。

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化学辞典 第2版 「乳酸発酵」の解説

乳酸発酵
ニュウサンハッコウ
lactic acid fermentation

解糖系によってグルコースからピルビン酸が生成され,それがさらに乳酸脱水素酵素ラクタートデヒドログナーゼによって還元され,乳酸になる過程.このエネルギー獲得系はトリカルボン酸(TCA)サイクルを欠く細菌だけでなく,動物の筋肉細胞においても,過度の運動を強いられ,酸素不足のときは,乳酸発酵によってエネルギーを得る場合がある.乳酸菌はヒトの腸管内にも自然フローラとして住む.古くからチーズ,発酵乳など多くの伝統的発酵食品の製造に使われてきている.

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栄養・生化学辞典 「乳酸発酵」の解説

乳酸発酵

 糖を原料にして乳酸を生成する発酵.

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