改訂新版 世界大百科事典 「異常伝搬」の意味・わかりやすい解説
異常伝搬 (いじょうでんぱん)
abnormal propagation
波動の伝搬が異常な現象をいうが,ここでは音について解説する。音は音源から遠く離れるに従って,その強さが衰えついに聞こえなくなってしまうのが普通である。しかし火薬の大量爆発や火山の噴火の大爆音のような場合には,音源から数十kmで音はいったん弱まって聞こえなくなるが(無声域),200km前後の所で再び聞こえるようになり(異常聴域あるいは外聴域),無声域と異常聴域が3段にも4段にも繰り返す場合がある。
大気中を音が伝わる速さは,伝搬する場所の大気の温度と,媒質としての大気の風向,風速に関係する。大気の温度は対流圏の中では高さ1kmについて6℃くらいの割合で下がるが,成層圏の中へ入ると,だんだん温度は上がって,50kmくらいの高さでは地表と同じくらいになる。このため初め上に向かって凹であった音線の向きが,上に向かって凸となり,音源から200km内外の所に音線が集まって,ここに可聴域ができるようになる。
浅間山爆発の時の爆音の聞こえた範囲を調べてみると,西側では無声域と異常聴域がきちんとしているが,東側では内聴域と外聴域がふくれてつながっている。これは高層の西風の影響である。
第2次世界大戦後,ロケットを利用して高層の気温や風の観測をするようになったが,その手段の一つに音の伝搬を使うものがある。ロケットが上昇して行く時に,高さで2~3kmごとの間隔で,一連の爆薬に点火して爆発させる方法である。爆発点下の地上では,東西,南北の直線上にいくつかのマイクロホンを置き,各爆発から来る音波の到着の正確な時刻と,その角度を測定する。この測定結果から,二つの爆発の間の各層の平均の風と温度を決定することができる。
執筆者:畠山 久尚
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報