キリスト教の古来の儀礼の一つ。カトリック教会の七秘跡の一つ。イエス・キリストはその生涯の救いの業(わざ)の中で特に病人に心を掛け,多くの病気をいやした。そしてこれを弟子たちにも求め,病者をいやす権能を与えた。弟子たちをはじめその後継者である司祭(長老)たちは,油を塗って病者の手当てをした(《マルコによる福音書》6:13,《ヤコブの手紙》5:14)。信仰による祈りが病人を救い,主はその人を立ち上がらせ,罪もゆるされることが信じられ,互いに祈り合うよう勧められている(《ヤコブの手紙》5:15)。このような病者に対する配慮は,やがて一定の形をとり,〈病者の塗油〉の秘跡として発展するが,ヒッポリュトスの《使徒伝承》(215)に見られる油の聖別には,まだ聖香油との区別が見られない。トゥムイスのセラピオン(4世紀)の祈願に明らかなように,古代の〈病者の塗油〉は心と体の完全な健康を意図するもので,特に死を予期したものではなかった。中世になって典礼における塗油が分化するに伴い,〈病者の塗油〉は最終の塗油すなわち終油として死に備える意味を持つようになり,〈終油の秘跡extrema unctio〉と呼ばれ,臨終まで受けることを延ばす傾向が生じた。現在では,再び〈病者の塗油〉と呼ばれるようになり,本来の病者のための秘跡のあり方が復興されつつある(カトリック儀式書《病者の塗油》1980)。
執筆者:土屋 吉正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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