翻訳|colitis
大腸の炎症。外部からの刺激作用に対する生体の応答の表現で,いろいろな病気が含まれる。病理学的には,急性・慢性カタル性(この場合を大腸カタルという),出血性,壊死性,偽膜性,化膿性などの病変がある。消化管全般にわたる炎症の部分的な現象として現れたり,また独立して大腸に現れたりする。特異性大腸炎と原因不明の非特異性大腸炎に分けられ,特異性のものとしては,細菌性赤痢,粘膜侵入性大腸菌,腸管出血性大腸菌(O-157),カンピロバクター腸炎,大腸結核症,淋菌性直腸炎,クラミジア直腸炎,大腸放線菌症,アメーバ赤痢,日本住血吸虫症,バランチジウム症などがあり,非特異性の大腸炎としては,潰瘍性大腸炎,大腸クローン病(肉芽腫性大腸炎),非特異性(単純性)結腸潰瘍,ベーチェット病,放射線照射性大腸炎,大腸憩室炎,虚血性大腸炎,偽膜性大腸炎,抗生物質惹起性大腸炎,尿毒症性大腸炎などがある。炎症の部位による分類では,盲腸炎,虫垂炎,左半結腸炎,区域性大腸炎,S状結腸炎,直腸炎,小腸大腸炎,全大腸炎などがある。炎症の時期による分類では,急性と慢性に分けられ,急性炎症は細菌,ウイルスまたは原虫などの炎症性因子により起こり,慢性炎症は特異性のものとして大腸結核症など,非特異性のものとして潰瘍性大腸炎,大腸クローン病などがある。従来いわれていた便通異常(下痢や便秘)を主とする慢性大腸炎は,その多くは過敏性大腸症候群に相当する病態である。欧米でいう特発性直腸結腸炎は潰瘍性大腸炎と同義である。症状は,原疾患により異なるが,下痢や軟便などの便通異常と腹痛を呈し,発熱を伴うものもある。診断は,病歴の分析,糞便の潜血反応,虫卵検査,細菌学的検査および顕微鏡検査,大腸X線検査,大腸内視鏡検査,腸生検などによる。治療は各疾患によって異なる。
執筆者:朝倉 均
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大腸の炎症性疾患の総称で、多種多様の疾患を含み、いろいろな分類法がある。(1)発病期間によって急性と慢性に分けられるが、区別はかならずしも明確でない。普通、数か月に及ぶものは急性大腸炎とはよばない。急性大腸炎の多くは感染性大腸炎であり、慢性大腸炎は潰瘍(かいよう)性大腸炎やクローン病など非特異性大腸炎の場合が多い。(2)部位や広がりによって、びまん性と限局性に分ける。びまん性大腸炎は潰瘍性大腸炎、限局性大腸炎はクローン病や腸結核がそれぞれ代表例である。(3)感染の有無からは、感染性と非感染性に分ける。感染性大腸炎は細菌性赤痢、腸チフス、サルモネラ腸炎など、細菌感染による急性大腸炎がほとんどであるが、腸結核やアメーバ症などでは慢性の経過をとる。(4)病因が明確であるかどうかによっては、特異性と非特異性に分けられる。特異性大腸炎は病因の明確なものの総称で、腸結核、細菌性赤痢、サルモネラ腸炎などが含まれる。非特異性大腸炎は病因が不明で、特発性大腸炎ともよばれ、潰瘍性大腸炎やクローン病が代表例である。(5)このほか、子宮癌(がん)の放射線治療後にみられる難治性の放射線性大腸炎、抗生物質投与による菌交代現象で生ずる大腸炎、動脈硬化症や糖尿病などに併発する虚血性大腸炎、食中毒による感染性大腸炎などがある。
主症状は下痢で、腹痛や発熱を伴うことが多い。糞便(ふんべん)の細菌学的検査、大腸内視鏡検査、注腸X線検査などで診断される。
[吉田 豊]
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