日本大百科全書(ニッポニカ) 「発情ホルモン」の意味・わかりやすい解説
発情ホルモン
はつじょうほるもん
脊椎(せきつい)動物一般にみられる雌性ホルモンに属する一群のホルモンで、おもに卵巣の内莢膜(ないきょうまく)細胞か、それに由来する間細胞から分泌される。卵胞ホルモン、濾胞ホルモン(ろほうほるもん)ともいわれる。胎盤、副腎(ふくじん)皮質、精巣からも少量分泌され、哺乳(ほにゅう)類にみられるおもな発情ホルモンはエストロン、エストラジオール、エストリオールの3種である。妊婦の胎盤ではエストリオールが多量に生成される。多くの哺乳類の交尾に不可欠の発情を誘発するため、発情ホルモンとよばれるが、そのほかにも二次性徴の発達、生殖に必要な雌の生殖付属器官や乳腺(にゅうせん)の機能的発達、卵巣の濾胞形成を促進する。同時に全身の代謝活動を盛んにしたり、副腎を肥大させるなどの性器外作用も有する。また無脊椎動物、たとえば棘皮(きょくひ)動物や甲殻類の卵巣中にも検出されるが、その生理的意義は不明である。発情ホルモンは植物にも存在し、ある種のクローバーはそれを食べるヒツジを不妊にしてしまうほどの量を含んでいる。なお多量の発情ホルモン投与が妊娠初期の切迫流産を防止する効果をもつところから、臨床的に合成発情ホルモンが使用されたが、生まれた子の生殖付属器官に癌(がん)が多発することが明らかになり問題となっている。またウシ、ヒツジあるいは魚などの飼料にこのホルモンを混ぜると体重の増加率がよいことから使用されるが、肉の中に残るホルモンの妊婦などに対する影響が心配され、アメリカではその使用が禁止された。
[守 隆夫]