日本大百科全書(ニッポニカ) 「エストロン」の意味・わかりやすい解説
エストロン
えすとろん
estrone
動物の雌の卵巣から分泌されるステロイドホルモンで、卵胞ホルモン(発情ホルモン)の一種。エストラジオール、エストリオールなど同じ作用をする物質を含めエストロジェン(エストロゲン)と総称する。妊娠した動物の尿中に大量に含まれており、天然物から最初に単離された卵胞ホルモンである。妊馬尿から抽出されるが、これをさらに還元して得られるエストラジオールのほうがホルモン作用が3、4倍強いので、エストロンはその原料として使われている。成熟した卵胞や胎盤から分泌され、生殖腺(せん)の発育、性徴や乳腺の発達を促進する。とくに脳下垂体前葉から分泌される生殖腺刺激ホルモン、黄体から分泌される黄体ホルモンと共同して働き、性周期や妊娠から出産に至る期間を調節している。
血中でエストロンはエストラジオールと平衡して存在し、肝臓で代謝されてエストリオールとなる。また、肝臓でグルクロン酸や硫酸と抱合され、尿中に排出される。胆汁中に分泌されたエストロンのうちのかなりの量は再吸収される(腸肝循環。腸管より吸収され肝細胞に摂取されて抱合を受け、その後腸内細菌で抱合体が脱抱合され、ふたたび腸管から吸収される)。
臨床的には弱い生物活性を利用して、更年期障害の改善に経口投与錠として、また注射薬として排卵誘発や機能性出血(器質的障害がないのに子宮から出血すること)の止血用に用いられている。
[小泉惠子]