改訂新版 世界大百科事典 「発芽試験」の意味・わかりやすい解説
発芽試験 (はつがしけん)
germination test
種子の発芽の良否を判定するための試験。種子は農作物の一生の出発点となるものであり,その発芽の良否はその後の生育のみならず収量にも大きな影響を及ぼす。優良な種子の流通をはかるために制定された種苗法では,農林水産省の指定する種子の頒布に当たって,種子の包装に発芽試験の成績を表示することが種苗業者に義務づけられている。発芽試験の試験項目として,最も重視されるのは発芽率(発芽歩合ともいう)である。湿った発芽床に置床した種子は日を追って発芽(種皮を破って植物体の一部が現れてくること)してくるが,発芽しうるとみられるものがほぼ出そろう時期を目安として発芽率締切日とし,この時点での発芽種子数の全置床種子数に対する百分率を発芽率とする。発芽率締切日は供試する種類によって異なり,それぞれに基準が設けられている。ふつうは置床後10日から14日目程度であるが,発芽のゆるやかな木本性作物の種子では,著しく長期にわたる場合もある。発芽率についで問題とされる発芽勢(はつがぜい)は,締切日をより短く限って,その時点の発芽種子数の全置床種子数に対する百分率をいう。優良な種子ほど発芽勢は高く,古い種子では発芽勢が低下するのがふつうである。
農作物の種類によって種子の発芽条件は著しく異なるため,発芽試験に際しては,その種子の発芽に好適とされる温度,水分,光などの条件を厳密に規定しておくことがたいせつである。発芽器には湿ったろ紙を敷いたふたつきのガラスシャーレを用い,定温器内に置いて試験するのが最もふつうであるが,この目的のために開発された発芽器が用いられる場合もある。リーベンベルヒの発芽器はその代表的なもので,亜鉛板製のふたつきの箱の底に水をたたえ,棚状に渡した数条のガラス板上からろ紙が水中に垂下するような構造になっている。種子を置床するガラス板上のろ紙は,常に一定の水分状態に保たれる利点がある。信頼のおける成績を出すためには,このように条件を厳密に規定するとともに,供試種子数を多くすることもまた重要である。種子の大きさにもよるが,ふつう25,50,100粒程度を同一発芽器内に斉一に置床し,反復して少なくとも400粒以上の種子について試験を繰り返すことが要請されている。
執筆者:山崎 耕宇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報