日本大百科全書(ニッポニカ) 「白兎記」の意味・わかりやすい解説
白兎記
はくとき
中国、元末明(みん)初の南曲。作者不明。五代の漢の高祖、劉知遠(りゅうちえん)は家が貧しく、妻李三娘(りさんじょう)を実家に残して軍隊に投じ、長官に気に入られ、婿となる。三娘は兄夫婦に虐待され、子供咬臍(こうせい)まで殺されかねないため、知遠のところに送る。十数年後、狩りで白兎を追う咬臍は水くみに疲れ果てた農婦に出会い、初めてそれが実の母と知って連れ帰り、三娘は夫と再会する。農家の娘三娘が兄嫁の迫害に耐え、奴隷のような生活をしてもなお再婚を拒否する、その強い性格と、素朴な歌詞が感動をよぶ。先だつ作品に宋(そう)代話本『新編五代史平話』、金(きん)の語物『劉知遠諸宮調』がある。民間伝説が小説や講釈の脚本となり、さらに長編戯曲に発展したものであろう。『明化成説唱詞話叢刊(そうかん)』のなかの『白兎記』は齣(せき)(場)を分けず古い形式を伝えている。ほかに『明六十種曲』本が通行している。
[平松圭子]
『『青木正児全集3 支那近世戯曲史』(1962・春秋社)』