白木黒木(読み)しろきくろき

改訂新版 世界大百科事典 「白木黒木」の意味・わかりやすい解説

白木・黒木 (しろきくろき)

白木は現代では〈しらき〉と読んで,塗装されていない木材を指すが,古くは樹皮がついたままの木材を指す黒木に対比して,樹皮を取り去った木材を白木と呼んだ。日本の古代建築では,神社や宮殿に白木のヒノキ材が用いられ,その美しい木肌が尊重されたが,一方では樹皮のついたままの木材が選ばれる場合があった。大嘗祭(だいじょうさい)に建てられる臨時の神殿である大嘗宮正殿では,柱は黒木の掘立柱で,屋根も新しく刈った青草で葺(ふ)いた。春日大社若宮御祭では,現在も臨時の御旅所が黒木の柱や梁を用いて建てられる。そのほか農村の民俗行事でも,新しく切った杉の枝などで祠が造られることがある。これらは,人間の手が一度も加わらない黒木の自然のままの清浄さが,神を迎える建築にふさわしいと考えられたからであろう。また古代貴族の別荘などにも黒木で建てたものがあり,〈奈良の山なる黒木もち作れる室(いえ)はませどあかぬかかも〉(《万葉集》巻八)と歌われている。この場合も,自然感に富む居住環境のなかで日常生活のけがれを取り去り,生命力を回復できると感じられたのであろう。中世邸宅のなかにも黒木御所名称が見えるが,黒木のもつ自然的表現を洗練させ美的様式として完成させたのは,茶室や,茶室様式を邸宅に応用した数寄屋造(すきやづくり)である。江戸時代の将軍大名の邸宅における白書院黒書院の場合も,書院造の正規の様式による白書院に対して,黒書院には皮つきの柱などの数寄屋造の手法が用いられ,より内向きの接客に使われたが,両者間に様式的な差異がない場合もある。白木・黒木の対照的な使用は建築だけでなく,日常生活のいろいろな面に及んでおり,現在も使い捨ての楊枝(ようじ)に皮つきの〈くろもじ〉を使うなどの例が見られる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報