直接染料(読み)ちょくせつせんりょう(英語表記)direct cotton dyes

精選版 日本国語大辞典 「直接染料」の意味・読み・例文・類語

ちょくせつ‐せんりょう ‥センレウ【直接染料】

〘名〙 水によく溶け、媒染によらず繊維に直接染着する合成染料大部分アゾ染料で、中性ないし弱アルカリ性の染浴に溶かし、食塩硫酸ナトリウムを加え、繊維を浸して加熱すると染まる。木綿・麻・レーヨンなどのセルロース繊維に用いられる。染色法が簡単なので家庭染色にも用いられるが、洗濯堅牢度や耐光性で劣り、色も鮮明なものは出にくい。約千種の製品が知られる。
※最新実用衣服と整容法(1928)〈青木良吉〉「直接染料硫化染料は、多く木綿染に使はれまして色相が汚なく、染賃安いと云ふことから」

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デジタル大辞泉 「直接染料」の意味・読み・例文・類語

ちょくせつ‐せんりょう〔‐センレウ〕【直接染料】

木綿・麻・人絹などを、媒染を必要としないで直接染めることのできる水溶性の染料。染色法が簡単なので多く用いられるが、日光および洗濯に弱い。アゾ染料など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「直接染料」の意味・わかりやすい解説

直接染料
ちょくせつせんりょう
direct cotton dyes

木綿やレーヨンなどのセルロース繊維を媒染や下浸(したづ)けなどの前処理をせずに、中性または弱アルカリ性水溶液中で直接に染色できる染料。直接木綿染料ともいう。歴史的には、1884年ドイツのベッティガーPaul Böttigerによるコンゴーレッドの発見以来、数多くの染料が開発され、現在では合成染料の主要な地位を占めている。分子会合性が強く、コロイドになるものが多い。性能、用途面から次の3種に大別されている。

(1)一般直接染料 歴史的に古い染料が多い。日光や洗濯に対する堅牢(けんろう)度が低いので、木綿やレーヨンよりはパルプ、絹、皮、雑貨などの着色に多く用いられている。

(2)高級直接染料(シリアス系直接染料) 耐光性や洗濯堅牢度を向上させるために、化学構造にくふうを加えた染料。レーヨン、キュプラパルプのほかにも、ポリエステル・レーヨン、ポリエステル・綿など混紡のセルロース繊維側の染色に用いられている。

(3)後処理直接染料 銅後処理などで堅牢度の向上がある染料で、銅イオンと錯塩を形成しうる構造をもっている。

 直接染料はベンジジン、ジトリジン、ジアニシジンからのアゾ染料が主体である。ただし、ベンジジンは発癌(はつがん)性が明らかになった1970年代以降は生産されていない。これらのアゾ染料のほかに、フタロシアニンなどをスルホン化して水溶性にしたものも高級直接染料として用いられている。

[飛田満彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「直接染料」の意味・わかりやすい解説

直接染料 (ちょくせつせんりょう)
direct dye

水に可溶性でセルロース繊維に媒染剤を必要とせず直接に染着するアニオン性の染料。歴史は古く1884年にベッティガーP.Böttigerによってつくられたコンゴーレッド以来数多くの直接染料が出現したが,そのなかでもダイレクトディープブラックは著名である。化学構造からみるとアゾ,スチルベン,チアゾール,ジオキサジン,フタロシアニンなどに分けられるが,大部分がアゾ染料でジスアゾ,トリスアゾ染料が多い。アゾ基をもたないジオキサジンおよびフタロシアニン染料は耐光堅牢性の高級染料である。すべて水溶性基であるスルホン酸基(まれにカルボン酸基)をもち,色素母体をDで表せばD-SO3Naの形をとっている。直接染料は一般に線状に長く続いた共役二重結合系を含み,分子中の芳香核が共平面を保ち,水素結合形成基を含むことが必要である。染色に際しては,中性ないし弱アルカリ性の浴に助剤として食塩や硫酸ナトリウムを加えてセルロース繊維を浸し,煮沸して染色する。これらの助剤は染りを助け色止めとして働く。直接染料は一般に安価で染色法も簡単であるので,木綿などの染色に大量に使用されてきた。しかし,色が鮮明でなく日光や洗濯堅牢度もあまり高くないという欠点があり,洗濯堅牢度の改良のためにいろいろな工夫がなされたが,1956年イギリスのICI社よりセルロース繊維に化学的に反応する洗濯堅牢度の高い反応染料が発明されるに及び,直接染料はその地位を反応染料に譲った。
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化学辞典 第2版 「直接染料」の解説

直接染料
チョクセツセンリョウ
direct dye, substantive dye

木綿やレーヨンなどのセルロース繊維に,直接染着することのできる水溶性の染料の総称.ほかの染料の場合と異なり,中性浴あるいは弱アルカリ浴中で繊維を加熱することにより簡単に染色することができる特長をもつ.構造的には,コンゴーレッドや図示した例にみられるように,スルホン酸基をもったポリアゾ染料であり,そのほかごく少数ではあるがチアゾール系,フタロシアニン系,アントラキノン系のものがある.直接染料はコロイド性を示し,セルロース繊維に対する親和力は,水素結合とファンデルワールス力とによるものと考えられる.これらの結合力は小さく,湿潤堅ろう度は一般に低い.これを改善するために,染料の化学構造に応じて銅塩処理,カチオン性の媒染剤による後処理が工夫されている.C.I. Direct Red 81のような耐光性の強いものもあるが,一般に日光にも弱く,色調も不鮮明なものが多い.木綿の染色に重要であり,皮革,紙などの染色にも利用されている.市販品は約200種類を超える.

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百科事典マイペディア 「直接染料」の意味・わかりやすい解説

直接染料【ちょくせつせんりょう】

媒染剤を必要とせず,直接染着する水溶性染料。コンゴーレッドをはじめ,その多くはアゾ基−N=N−を分子内にもつアゾ染料で,木綿などの染色に使われてきた。染め方は簡単であるが,一般に日光や洗濯に弱く,色も不鮮明。工業的には各種の後処理を行って染色を丈夫にする。分子内に銅やクロムを含んだ高級直接染料も市販されている。
→関連項目染料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「直接染料」の意味・わかりやすい解説

直接染料
ちょくせつせんりょう
direct dyes

媒染剤を使わないで直接染めることのできる染料。大部分がアゾ基をもち,木綿などの繊維素系繊維用には芒硝,食塩などの中性塩を含む染色液,絹,羊毛などの蛋白質繊維用には酢酸のような弱酸を含む染色液がある。コンゴーレッドは木綿の直接染料として代表的なものである。直接染料は染めるのが簡単であるが,全般に色が鮮明でなく,日光や洗濯にも弱い。しかし現在は,有機顔料をスルフォン化したフタロシアニン染料,ジオキサン染料や,金属含有アゾ染料,ジアヌール環を含むアゾ染料など,耐光堅牢度にすぐれたものも多く出ている。直接染料のなかには,一部金属塩後処理,フォルマリン後処理,カプリング処理,顕色処理などによって,堅牢度を高めることのできる染料もあるが,変色を伴うので注意を要する。

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栄養・生化学辞典 「直接染料」の解説

直接染料

 媒染を用いることなく,直接染色する染料.

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世界大百科事典(旧版)内の直接染料の言及

【染料】より

…このようにして共役系が長くなるほど,また置換基などの影響でπ電子系の電荷のかたよりが大きくなるほど,染料の吸収スペクトルは長波長となり,観察される色は深くなる。
[化学構造と性質]
 染色性を基として染料を分類すると,直接染料,酸性染料,塩基性染料,酸性媒染染料,金属錯塩染料,硫化染料,建染染料,硫化建染染料,アゾイック染料,分散染料,反応染料,酸化染料,油溶染料および蛍光増白剤などが挙げられる。しかしながら近年の染料部属の需要は大きく変化し,ほとんど使われなくなったもの,非常に使用量が増加したものなどさまざまである。…

※「直接染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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