木綿やレーヨンなどのセルロース繊維を媒染や下浸(したづ)けなどの前処理をせずに、中性または弱アルカリ性水溶液中で直接に染色できる染料。直接木綿染料ともいう。歴史的には、1884年ドイツのベッティガーPaul Böttigerによるコンゴーレッドの発見以来、数多くの染料が開発され、現在では合成染料の主要な地位を占めている。分子会合性が強く、コロイドになるものが多い。性能、用途面から次の3種に大別されている。
(1)一般直接染料 歴史的に古い染料が多い。日光や洗濯に対する堅牢(けんろう)度が低いので、木綿やレーヨンよりはパルプ、絹、皮、雑貨などの着色に多く用いられている。
(2)高級直接染料(シリアス系直接染料) 耐光性や洗濯堅牢度を向上させるために、化学構造にくふうを加えた染料。レーヨン、キュプラパルプのほかにも、ポリエステル・レーヨン、ポリエステル・綿など混紡のセルロース繊維側の染色に用いられている。
(3)後処理直接染料 銅後処理などで堅牢度の向上がある染料で、銅イオンと錯塩を形成しうる構造をもっている。
直接染料はベンジジン、ジトリジン、ジアニシジンからのアゾ染料が主体である。ただし、ベンジジンは発癌(はつがん)性が明らかになった1970年代以降は生産されていない。これらのアゾ染料のほかに、フタロシアニンなどをスルホン化して水溶性にしたものも高級直接染料として用いられている。
[飛田満彦]
水に可溶性でセルロース繊維に媒染剤を必要とせず直接に染着するアニオン性の染料。歴史は古く1884年にベッティガーP.Böttigerによってつくられたコンゴーレッド以来数多くの直接染料が出現したが,そのなかでもダイレクトディープブラックは著名である。化学構造からみるとアゾ,スチルベン,チアゾール,ジオキサジン,フタロシアニンなどに分けられるが,大部分がアゾ染料でジスアゾ,トリスアゾ染料が多い。アゾ基をもたないジオキサジンおよびフタロシアニン染料は耐光堅牢性の高級染料である。すべて水溶性基であるスルホン酸基(まれにカルボン酸基)をもち,色素母体をDで表せばD-SO3Naの形をとっている。直接染料は一般に線状に長く続いた共役二重結合系を含み,分子中の芳香核が共平面を保ち,水素結合形成基を含むことが必要である。染色に際しては,中性ないし弱アルカリ性の浴に助剤として食塩や硫酸ナトリウムを加えてセルロース繊維を浸し,煮沸して染色する。これらの助剤は染りを助け色止めとして働く。直接染料は一般に安価で染色法も簡単であるので,木綿などの染色に大量に使用されてきた。しかし,色が鮮明でなく日光や洗濯堅牢度もあまり高くないという欠点があり,洗濯堅牢度の改良のためにいろいろな工夫がなされたが,1956年イギリスのICI社よりセルロース繊維に化学的に反応する洗濯堅牢度の高い反応染料が発明されるに及び,直接染料はその地位を反応染料に譲った。
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
木綿やレーヨンなどのセルロース繊維に,直接染着することのできる水溶性の染料の総称.ほかの染料の場合と異なり,中性浴あるいは弱アルカリ浴中で繊維を加熱することにより簡単に染色することができる特長をもつ.構造的には,コンゴーレッドや図示した例にみられるように,スルホン酸基をもったポリアゾ染料であり,そのほかごく少数ではあるがチアゾール系,フタロシアニン系,アントラキノン系のものがある.直接染料はコロイド性を示し,セルロース繊維に対する親和力は,水素結合とファンデルワールス力とによるものと考えられる.これらの結合力は小さく,湿潤堅ろう度は一般に低い.これを改善するために,染料の化学構造に応じて銅塩処理,カチオン性の媒染剤による後処理が工夫されている.C.I. Direct Red 81のような耐光性の強いものもあるが,一般に日光にも弱く,色調も不鮮明なものが多い.木綿の染色に重要であり,皮革,紙などの染色にも利用されている.市販品は約200種類を超える.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このようにして共役系が長くなるほど,また置換基などの影響でπ電子系の電荷のかたよりが大きくなるほど,染料の吸収スペクトルは長波長となり,観察される色は深くなる。
[化学構造と性質]
染色性を基として染料を分類すると,直接染料,酸性染料,塩基性染料,酸性媒染染料,金属錯塩染料,硫化染料,建染染料,硫化建染染料,アゾイック染料,分散染料,反応染料,酸化染料,油溶染料および蛍光増白剤などが挙げられる。しかしながら近年の染料部属の需要は大きく変化し,ほとんど使われなくなったもの,非常に使用量が増加したものなどさまざまである。…
※「直接染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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