4‐アミノフェノールのような比較的簡単な構造の有機化合物を硫黄(いおう)あるいは多硫化ナトリウムと加熱して得られる染料。硫化ナトリウムにより水溶性のロイコ体となり、セルロース繊維を直接に染色できるので、この名がある。1893年にビダルE. Vidahlが初めて合成し実用化した。単一な組成でなく、加硫の条件によって組成が異なる混合物である。色調は黄~茶褐色、青緑、黒などの系統であるが、概してくすんでいる。
硫化染料は日光、洗濯などに対する堅牢(けんろう)度は一般に良好であるが、摩擦や塩素に弱い。また、黒色染色物では、保存中に遊離した硫酸による繊維の脆化(ぜいか)がおこるなどの欠点があるが、安価で製造も容易であるので、もっとも大量に生産された染料である。しかし、合成繊維の進出や染色性が不十分であること、排水処理の関連から使用量は減少している。なお、青色系染料であるヒドロンブルーなどでは、硫化ナトリウムのみでは完全にロイコ体に還元されないので、ハイドロサルファイトの使用が必要である。このような染料を硫化バット染料という。また分散染料型のものや、水溶性にしたもの、複雑な反応の加硫を経ず単一成分を純粋に合成したものなど種々の改良が試みられている。
[飛田満彦]
一般に,比較的簡単な中間物(芳香族のアミン類,フェノール類,ニトロ化合物等)を多硫化ナトリウムNa2Sxと融解してつくられる染料の部属。硫化染料の特色は,製法が簡単であるため安価であるにもかかわらず,染色物は耐光・洗濯堅牢度が高いことである。色は黒,紺のほかに,赤,黄,褐色など種類が多いが,鮮明さは乏しい。実用的には木綿の黒染,紺染として以前はかなり使用されたが,近年生活レベルの向上とともに鮮やかな色が好まれるようになり使用が少なくなった。他の染料と異なり化学構造が単一でなく,したがって構造決定がなされていない。硫化染料は不溶性であるが,染色の際,硫化ナトリウムNa2Sで還元され可溶のロイコ体(ロイコ化合物)となり染着する。硫化染料のなかで,染色の際ハイドロサルファイトで還元浴をつくる染料は硫化建染染料という。
執筆者:新井 吉衞
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アミノフェノール,インドフェノール,ニトロフェノールなど比較的簡単な芳香族化合物を,硫化ナトリウムあるいは硫黄と溶融(加硫)することにより生成する含硫黄染料.したがって,生成染料は単一物質ではなく,分子量の比較的大きな,加硫段階の異なる染料の混合物であり,明確な構造式を与えることはできない.ただし,芳香族化合物と硫黄からチアゾール,チオフェン,チアントレンなどの複素環が生成して発色母体を形成し,またこれらの環はポリスルフィド基-Sn-で結合していることなどが推定されている.硫化染料はいったん硫化ソーダ還元により水に可溶のロイコ体とし,繊維に染着させたのち,繊維上で空気酸化してふたたび不溶性染料とする.ロイコ体はポリスルフィド結合が開裂して生じたチオフェノールのナトリウム塩-SNaであり,酸化によってジスルフィド結合-S-Sを生成してふたたび不溶化するものと考えられている.一般に,色調はくすみ,塩素漂白に弱く,また繊維を脆化するなどの欠点をもっている.しかし,日光や洗濯に強いうえに,非常に安価であることを特徴とし,木綿の染色に多量に用いられている.しかし,合成繊維の普及に伴って生産量は激減している.
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