染料のうち,天然物によらず,有機合成化学の過程を経て製造されるものの総称。人類は有史以前から,天然の色素,たとえば花,木,葉,コケ,キノコなどの植物性色素,貝殻,昆虫,イカの墨,鳥などの動物性色素などをいろいろな目的で使用してきた。そのなかには,趣味や美術の分野で草木染として現在に残っているものもあるし,天然色素が化学構造や機能の解明など学術研究の対象になっているものもある。しかし工業的な意味では,繊維を染色する染料,着色を目的とする有機顔料においては,天然染料は完全に合成染料に置きかえられてしまった。合成染料は1856年イギリスのW.H.パーキンがアニリンから赤紫色染料モーブを合成したのが端緒になり,80年にはドイツのJ.F.W.A.vonバイヤーにより天然の藍の主成分であるインジゴが合成され,4年後にはベッティガーP.Böttigerにより赤色の直接アゾ染料であるコンゴーレッドが,さらに1901年にはドイツのボーンR.Bohnにより青色の高級建染染料であるインダントロン(インダンスレン)の合成が行われた。これらはいずれも,合成染料の歴史上画期的な出来事であった。近年に至っても染料合成の発展はとどまることなく,新しい合成繊維染色用の分散染料,カチオン染料,輝いた白さを与える蛍光増白剤,セルロース繊維などと化学的に反応して堅牢な染色物を得る反応染料など,優れた性能をもつ新しい染料が続々と誕生している。有機顔料の分野でも,青色,緑色の理想的顔料であるフタロシアニンがあるが,他の色についてもこれと同等の性能をもつモダンピグメントmodern pigmentsが開発されている。また,合成染料の最近の特殊用途として,エレクトロニクスの発達に伴い,有機半導体,光電導体,レーザー光線吸収剤などへの応用が著しく展開されている。
→顔料 →染料
執筆者:新井 吉衞
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動植物から得られる天然染料に対して、ベンゼンなどの芳香族化合物を原料として、有機合成化学の手法により化学合成された染料を合成染料という。合成染料の発展の初期には合成原料はおもにタール製品やアニリン誘導体であったので、コールタール染料(あるいはタール染料、タール色素)またはアニリン染料とよばれるが、芳香族原料の多くが石油から得られている今日の状況からみれば正しい呼び方ではない。現在、染料は実用的にはほとんど合成染料が主となって用いられている。1856年にイギリスのW・H・パーキンがキニンの合成研究の途中に赤紫色の塩基性染料を発見し、これにモーブMauveの名称を与えて実用・工業化したのが合成染料の始まりである(このとき彼は18歳であった)。その後染料合成化学が急速に進展し、多種類の品種を生み、天然染料に置き換わってきた。インジゴのような主要な天然染料も合成品に置き換えられた。現在製造されている合成染料は、ほとんどが天然染料にはない構造のもので、優れた性能のものも多い。こうした染料合成化学の発展に伴い、芳香族化学が確立し、染色を目的とした染料以外に、医薬、農薬の合成化学が発展してきたことは注目すべきであろう。
[飛田満彦]
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…さらに18世紀半ばになると天然のインジゴを化学的に発煙硫酸でスルホン化する技術が発見された。1856年W.H.パーキンがアニリンを酸化して得た最初の動物繊維用赤紫色染料モーブMauveを発明,次いで59年に赤色塩基性染料マゼンタが合成され,以後合成染料時代の幕開けを迎えた。それにより人類は天然染料として所有していた藍,茜などとまったく同一の染料を合成化学の手法で手に入れたばかりでなく,数多くの新染料を創出し現在に至っている。…
…両者とも着色剤として使用されるため,美麗鮮明な色とともに,日光,洗濯,水洗,摩擦などに対する堅牢度が要求され,顔料の場合はとくに耐水性,耐油・薬品性,耐熱性も重要である。 合成染料が初めて誕生してから約140年を経た現在,合成技術の進歩とともに人類が要望するほとんどすべての染料および顔料を合成することができた。したがって天然染料でなくてはならない染料種は,趣味的なものは別として,実用的には現在まったくなく,染料はすべて合成染料を指すことになった。…
※「合成染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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