相互保険を扱う非営利の社団法人。保険業法に基づく保険会社特有の会社形態である。株主は存在せず、保険契約者が社員(株式会社の株主に相当)となり、配当を受ける。全保険契約者が議決権をもつ社員であるため、社員数は数百万から1000万人超に達し、事実上、社員総会を開催することはできない。このため保険契約者のなかから総代を選び、この総代によって構成される総代会(株式会社の株主総会に相当)を最高意思決定機関とし、経営監視や経営方針の承認を行う。日本では1902年(明治35)に設立された第一生命保険が相互会社の第1号である。2014年(平成26)8月時点で、日本生命保険、明治安田生命保険、住友生命保険、富国(ふこく)生命保険、朝日生命保険が相互会社方式を採用している。なお、相互会社方式の損害保険会社はない。
株式会社方式の生命保険会社では契約者とは別に株主にも配当する必要があるのに対し、相互会社は契約者にすべての配当を回すため、配当が高くなる傾向がある。また、相互会社には株式会社に比べて買収されにくいという特性がある。しかしその一方で、資金を市場から調達するのがむずかしいという問題が生じることや、さらには国際競争力向上のために必要な業界再編の障害になっているという指摘もある。日本ではバブル経済が崩壊した1990年代中盤以降、生命保険会社の経営悪化が相次いで表面化した。このため政府は1995年(平成7)に保険業法を改正し、相互会社から株式会社への転換を認めるようになった。これにより相互会社であった大同(だいどう)生命保険(2002年)、太陽生命保険(2003年)、三井生命保険(2004年)、第一生命保険(2010年)などが株式会社に転換し、経営統合や株式上場を果たしている。
なお、広義には、社員とサービス受益者(顧客)が一致する経営形態を相互会社という。日本の相互会社方式をとる保険会社のほか、社員から貯蓄を集めて社員に貸し出すアメリカの相互貯蓄銀行などがこれに該当する。
[矢野 武]
保険業法によって,保険事業を営むために設立することが認められる社団法人(保険業法18条以下)。相互会社は自社の社員を対象に保険事業を営むものであって,対外的な取引から利潤を得てこれを社員に分配するものではないから,営利法人ではなく,したがって商法上の会社ではない(商法52条参照)。また,自社の社員以外を対象に公益事業を行うものでもないから,民法上の公益法人でもない(民法34条参照)。その性格は,保険業法上の中間法人である。相互会社の設立は商法上の会社と同様に準則主義によるが,原始社員数は100人以上(保険業法24条),基金(会社の資本金に相当する借入金)は10億円以上でなければならず(同法6条,同施行令2条),かつ事業を開始するには大蔵大臣の免許を受けなければならない(同3条)。相互会社の営む事業は保険契約(相互保険)の引受けであって,その内容は原則として株式会社の引き受ける保険契約(営利保険)と同じである(商法664条,683条)。ただし,相互会社が行う保険事業の対象は自社の社員(株式会社における株主と同じ地位)に限られるから,保険の加入者は,保険契約と同時にその会社への入社契約をも締結しなければならない。相互保険の加入者は,社員として,会社に剰余金が生じたときはその配当を受ける権利をもつとともに,会社の債務について,払い込む保険料を限度とする間接有限責任を負う(保険業法31条)。相互会社にあっては,保険加入者の団体(保険団体)と事業主体としての社団法人とが同じメンバーで構成されることになるため,理念的には加入者が社員総会を通じて保険事業の運営に参加できるというメリットをもつことになる。団体的相互補償制度である保険事業についてのみ,このような組織の社団法人が認められた理由はそこにある。しかし,相互会社が大規模になると,実際には社員総会の開催はむずかしく,社員総代会がそれに代わることになる(同法42条)。その他の機関については,商法上の会社に関する規定(特に株式会社に関する規定)が大幅に準用されている。
執筆者:倉沢 康一郎
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