日本大百科全書(ニッポニカ) 「企業形態」の意味・わかりやすい解説
企業形態
きぎょうけいたい
forms of business enterprise
企業について、所有・出資・経営の特質を基準として分類した種類。企業法律形態、企業経済形態、企業体制の3種がある。
企業法律形態は、法律に規定されている各種の企業形態をいう。それはまず出資=所有の公私の別により、私企業形態、公企業形態、および公私合同(混合)形態に3大分される。まず私企業形態には、個人(商人、企業)、民法上の組合、商法上の匿名(とくめい)組合、中小企業等協同組合法による協同組合・企業組合、消費生活協同組合法による生活協同組合、会社法による会社形態、保険業法による相互会社がある。私企業の中心は会社形態であるが、これにも株式会社と持分(もちぶん)会社があり、後者にはさらに合名会社、合資会社、合同会社がある。なお会社法制定の過渡的措置として有限会社が存在するが、それは法的には株式会社とみなされる。私企業形態のなかで、株式会社の存在は圧倒的である。
公企業形態には、行政組織のまま現業(生産)を営む純行政経営とよばれる独立行政法人(例、国立印刷局)、個別立法による各種の「機構」(例、都市再生機構)、国(政府)の出資=所有による特殊会社(例、株式会社日本政策金融公庫)などがある。公私合同企業は通常は出資=所有の混合であるが(例、日本銀行=政府出資55%・民間出資45%)、理論的には公有民営や民有公営もありうる。
企業法律形態では、出資と経営の権利・義務関係を中心にした企業統治(コーポレートガバナンス)が最重要問題である。
企業経済形態は、法律形態を前提としながらも、それらの経済的意義を重視する。この見解の創始者・増地庸治郎(ますちようじろう)(1896―1945)は、まず企業をその所有によって私企業、公企業、公私合同企業に3大分する。私企業はさらに、出資者(所有者)の数の多寡により単独企業、少数集団企業、多数集団企業に3分される。単独企業は、出資者が個人であり、出資と経営が完全に合一した企業である。少数集団企業には、出資者全員が経営にあたる第1種と、一部のみが経営にあたる第2種とがある。後者では、出資と経営の分離が始まっている。多数集団企業では出資と経営は本格的に分離するが、これには出資者と給付(製品・サービス)利用者が一致しないもの(営利企業)と、両者が一致するもの(協同組合)がある。
企業経済形態では、出資・経営・支配の3要素の合一もしくは分離が関心の焦点になる。そのためもあって、公企業や公私合同企業については、独自の視点が希薄である。私企業について、企業法律形態との前記以外の対応を例示すれば、単独企業=個人、第1種少数集団企業=合名会社、第2種少数集団企業=合資会社・一部の有限会社、営利企業=株式会社などとなる。
企業体制は、企業法律形態にとらわれず、企業経済形態を内包しつつ、企業実態の内在的変化を低度なものから高度なものへの発展として理解し、公私企業の別を超えた統一的視点(経営の自主化)から諸種の企業を整理しようとするものである。低度な企業では、公私の別は歴然としている。私企業の原点は生業・家業(企業以前)であるが、それは同族・知人のような人的結合の企業(人的私企業)へと発展する。さらなる発展は、見ず知らずの多数者の出資を物的に結合する形になる(資本的企業)。その典型は株式会社であるが、それが巨大化すれば出資と経営は分離し、社会的責任を要請される自主性の高い制度ないし継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に基づく企業になる。
他方、公企業の原点は、行政組織による生産活動の遂行であるが(純行政経営、官業、現業)、官僚制に起因する非効率を改善するために、まず財政の制約を除去して独立採算とし、さらに行政組織から切り離して独立組織とし、ついには政治の拘束をしだいに除去する措置をとる。この経過は、財政・行政・政治と経営の分離であり、反面からいえば経営の自主性の高度化にほかならない。
高度に発展した企業では、公私の区別は形式上残るが、実態的には社会性・公共性・公益性を帯びた経営という点で、非常に近似したものになる。この段階の公企業がしばしば民営化されるのは、このような基盤があるためである。
なお企業形態には、以上のような個別企業形態のほかに、カルテル、連結会社のような複合企業形態がある。
[森本三男]
『小松章著『新経営学ライブラリ5 企業形態論』第2版(2000・新世社、サイエンス社発売)』▽『増地昭男著『企業形態研究』(2000・千倉書房)』▽『増地昭男・佐々木弘編著『最新・現代企業論』(2001・八千代出版)』▽『近藤光男著『会社法の仕組み』(日経文庫)』