相引き(読み)アイビキ

デジタル大辞泉 「相引き」の意味・読み・例文・類語

あい‐びき〔あひ‐〕【相引き/合(い)引き】

歌舞伎小道具の一。演技中、俳優が用いる方形の腰掛け。
俳優のかつらにつけたひも。内側左右にあり、後頭部で結ぶ。
はかま両脇前後を縫い合わせた部分。
引き合うこと。引っ張り合い。
足首つかんで兄弟が、大の男を―に」〈浄・今国性爺〉
敵味方双方が引き揚げること。
敵御方みかた―に京白河へぞ帰りにける」〈太平記・三三〉
互いに弓を引いて、矢を射ること。応戦すること。
かたき射るとも―すな」〈平家・四〉

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精選版 日本国語大辞典 「相引き」の意味・読み・例文・類語

あい‐びきあひ‥【相引・合引】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( ━する ) 戦っている双方が互いにその場から退くこと。
    1. (イ) 戦場で敵味方ともに軍をひくこと。
      1. [初出の実例]「信濃勢二百余騎討れければ、寄手も三百余騎討れて、相引きに左右へ颯(さっ)と引く」(出典:太平記(14C後)三一)
    2. (ロ) 勝負の決着がつかないときに、それぞれ自分側から引き下がること。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  3. ( ━する ) 互いに弓を引き合うこと。敵が矢を射かけてくるのに応戦して弓を引くこと。
    1. [初出の実例]「馬には弱う、水には強うあたるべし。河なかで弓ひくな。かたきゐるともあひびきすな」(出典:平家物語(13C前)四)
  4. ( ━する ) 干潮満潮時以外に、短い間、潮の満ちひきがあること。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  5. ( ━する ) 互いに引き合うこと。同時に引っ張ること。
    1. [初出の実例]「足首つかんで兄弟が、大の男を相引に」(出典:浄瑠璃・唐船噺今国性爺(1722)中)
  6. ( ━する ) 互いに語り合って事をたくらむこと。なれあい。
  7. あいびき(相引)の緒(お)」の略。
    1. [初出の実例]「きものたはねするりととをし、あひひきかけて、うらをかけ」(出典:幸若・高たち(室町末‐近世初))
  8. (はかま)の両脇の下部の前後を縫い合わせた部分。ここをつまみ上げて、ももだちをとる。
    1. [初出の実例]「袴(はかま)の相引(アヒビキ)しっかと取」(出典:浄瑠璃・雪女五枚羽子板(1708)もんさく系図)
  9. 四幅袴(よのばかま)という名の、下の方があいている袴の紐(日葡辞書(1603‐04))。
  10. 歌舞伎小道具の一つ。俳優が演技中用いる方形の腰掛け。桐製方形の小箱のような合引と踏み台のような中合引、高合引の三種がある。
    1. 相引<b>⑨</b>
      相引
    2. [初出の実例]「早替り、〈略〉化粧道具は相引(アヒビキ)鏡台として下に棚をこしらへ」(出典:戯場楽屋図会(1800)下)
  11. 歌舞伎俳優の鬘(かつら)が抜けたり、はえぎわにしわがよったりしないように台金の左右につける紐。後頭部で結ぶ。
    1. [初出の実例]「これでも合引(アヒビキ)で、ぐっと目をつりあげて、かづらをかけて見せたら、びっくりするだらう」(出典:滑稽本・八笑人(1820‐49)三)
  12. 歌舞伎の仕掛け物に用いる糸。
    1. (イ) 小道具の仕掛け物を動かす時に用いる糸。
      1. [初出の実例]「双方一時(とき)に木のかしら、此時水鳥を大分あひ引(ビキ)にて日覆へ引上げる」(出典:歌舞伎・善悪両面児手柏(妲妃のお百)(1867)五幕)
    2. (ロ) 襦袢(じゅばん)の襟や、引き抜きなど、仕掛け物に用いる細い紐。
  13. 茶道で、左右の手が茶器から離れる時の呼吸、または様子。

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