知的財産信託(読み)ちてきざいさんしんたく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「知的財産信託」の意味・わかりやすい解説

知的財産信託
ちてきざいさんしんたく

特許権者、商標権者や著作権者などの知的財産権を有する者が、その資金調達等のために、財産管理の専門家である信託会社に、その知的財産権の管理または処分およびその他の当該目的のために必要な行為を信託することをいう。

 日本の信託の制度は、信託法(平成18年法律第108号)と信託業法(平成16年法律第154号)により定められている。信託をする者を委託者といい(信託法2条4項)、信託行為の定めに従って知的財産権の管理または処分等をすべき義務を負う者を受託者という(同法2条5項)。

 信託法によれば、知的財産の信託の方法は、信託契約遺言または公正証書・電磁的記録による意思表示により、知的財産権を受託者に移転し、特許発明、登録実用新案、登録意匠、登録商標や著作物などの利用の許諾その他の当該知的財産権の管理を行わせるものである(信託法3条)。

 知的財産の信託は、2004年(平成16)12月の信託業法改正により、信託財産の制限が撤廃されてようやく可能となった。この信託業法が改正されるまでは、信託可能な財産は(1)金銭、(2)有価証券、(3)金銭債権、(4)動産、(5)土地およびその定着物、(6)地上権および土地の賃借権の6種類に限定されていた(改正前信託業法4条)。知的財産を信託可能にするためには、これらの受託財産の種類に知的財産権を追加するか、その制限を撤廃する必要があったが、後者の方法がとられたわけである。

 この知的財産の信託財産化は、とくに、2003年3月14日、経済産業省から「知的財産の信託に関する緊急提言」が公表され、知的財産に信託を利用できないことによって円滑な事業活動および知的財産の流動化が妨げられている現状と、特許権や著作権の信託による資金調達のニーズが大きいことが指摘されて実現したものである。

 特許権信託のニーズとしては、グループ企業間での効率的な管理・移転、共同開発者やパテントプール(複数の特許権者が所有する特許を、一つの企業体や組織体で管理し、その構成員が必要なライセンスを受けることができるシステム)の権利調整、中小企業の特許権流動化による資金調達、未利用特許の流動化、研究者へのインセンティブ付与、大学のTLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関)のような技術移転を行う者の業務の円滑化などがあげられる。

 また、著作権信託のニーズとしては、映画やアニメーションの上映権やビデオ化権を利用した、いわゆるコンテンツを基にした、その製作途中から完成品にわたる資金調達などがあげられる。

 改正信託業法においては、従来は金融機関に限定されていた信託会社への一般事業会社等の参入も認められた。そのため、知的財産権の管理実績のある機関が知的財産権の信託事業を行うことができるようになった。また、信託業務の形態は、「管理信託」のほか「資金調達信託」も可能となり、いわゆる「知的財産の証券化」による資金調達も促進されることとなった。

 ただし、著作権や著作隣接権の信託については、それが信託契約による場合には、著作権管理事業法(平成12年法律第131号)により信託業法の適用が排除されることとなっており(同法26条)、著作権等の管理を業として行う者(たとえば、日本音楽著作権協会=JASRACなど)は文化庁に登録すれば足り、信託業法上の免許(同法3条)は不要である。

[瀧野秀雄]

『別冊NBL編集部編『知的財産信託の活用法』別冊NBL No.102(2005・商事法務)』『寺本振透著『知的財産権信託の解法』(2007・弘文堂)』

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「知的財産信託」の解説

知的財産信託

会社に大きな利益をもたらす特許や著作権などの管理を、所有者が信頼できる他人に依頼すること。2004年の信託業法改正により、これが可能となった。これによってグループ企業の一括した知的財産管理が容易になり、信託を取り入れた流動的で組織だった計画が可能となり、活発化が期待された。が、信託銀行以外の新規参入対象が資本金1億円以上の株式会社に限定されるなど規制色が濃く、施行後1年で新規参入した事業会社は1社にとどまる。

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